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注目ベルリンD2CスタートアップfoodspringのExitと健康食品市場のトレンド

こんにちは、Shootです。

今日はfoodspringの紹介と米製菓ジャイアントMarsによる買収を取り上げ、最後にそこから読み取れるトレンドを考えてみたいと思います。

 

概要

www.foodspring.de

 

foodspringとは、2013年にTobias SchüleとPhilipp Schremppによってベルリンで創業されたスタートアップ。健康的で機能的な栄養食品を販売しています。

具体的にはプロテインなどトレーニング用サプリメント類やプロテインバーなどのスナック類、Müsliと呼ばれるグラノーラのようなものを扱っています。また、公式サイトでは自社プロダクトを使ったレシピも多数公開。

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https://www.foodspring.de/magazine/fitness-rezepte

はじめはeコマースのみでスタートしますが、現在はオフラインのチャネルを拡大し、大手ドラッグストアDMやスーパーマーケットREWEでも扱っています。 

 

マースの買収

まず2018年の時点で、ニュージーランドのフォンテラグループから大規模な出資を受けています。フォンテラはネスレやダノンと競合する世界最大級の乳業会社。このラウンドでは他の株主(Ringier, btov)含めて2200万€を調達しました。

foodspringはフォンテラが2017年に組織したベンチャーユニットの最初のスタートアップ投資でした。

この規模の資金調達はフードスタートアップにとっては珍しいですが、前年に8桁€まで急上昇した売上高と以前から原材料の取引があったことが要因だと思われます。

 

 

www.mars.com

その後2019年6月、スニッカーズやM&M'sなどで有名な米大手食品会社マースがfoodspring株式の過半数獲得を発表。

 

フォンテラは業績不振からいくつかの投資を現金化していますが、メディアのインタビューでこの新パートナーシップ成立とフォンテラの業績不振は関係がないと話しています。

買収価格は言及されていませんが、買収時点での従業員は130人程度、オンラインショップは12ヵ国展開。

foodspringの創業者は今後も株式を保有し、2017年に設立された健康食品を扱うマース・エッジの独立した子会社として事業を拡大していくようです。

同社社長は、foodspringの持つ消費者ニーズに関する深い知識は大きな財産であると評価し、パーソナル化された栄養という新たな領域で主導的なプラットフォームの一つを構築していくと述べています。

 

大企業によるスタートアップ買収

大企業は小さな企業をイノベーションの推進力として必要としています。この買収はそのような例の1つであると認識することができます。

ドイツ企業関連では他にも以下のような例があります。

 

ネスレは、人間が食べれるヒューマンクオリティペットフードを販売するミュンヘンの会社Terra Canisを買収。

ヘンケルは、デジタル分野でのベンチャー投資に1億5000万€の資金を確保。

有名な食材メーカーであるドクターエトカーはフォトケーキを提供するdeinetorte.denに出資。

 

これは両者にとってメリットがあります。

大企業は、機動力のあるスタートアップを取り込むことでテクノロジーや生産プロセス、消費者動向の急速な変化に直面してもイノベーションの最先端に遅れを取らないことを目指します。一方で、新興企業にとっては大企業のリソースがブレイクスルーを可能にします。

 

健康食品のメガトレンド

今回のfoodspring買収に関与した米国の投資銀行Houlihan LokeyのGaryth Stone氏は「大企業は今、ブランド開発の早い段階で介入する必要があることを理解しており、数年前には考えられなかったような小さな企業に投資する必要があることを理解している」と述べています。

 

また、WELTの記事によるとこの買収はマースの健康志向の市場セグメントでより強固なポジションを築くという戦略に合致。当社グループが伝統的に販売してきた菓子製品はいたるところで健康政策の圧力を受けていますが、パーソナル化された食品やウェルネスの世界市場は力強い成長を遂げているといいます。

今から3年前、2017年にはサンフランシスコのGrand View Researchはすでに世界の市場規模を249億ドルと推定し、今後数年間の年平均成長率9%の予測であると紹介しています。

 

foodspring今後の展望

先ほど述べたように、買収後もfoodspringの経営陣は残り、今まで通り事業の舵取りをします。あるインタビューの中でセグメントを拡大し、新製品を市場に投入し、個別栄養の話題を進めていくために国際化が最重要だと述べています。現在ではドイツ国外での売上高が50%以上を占めており、スイス、オーストリアなどドイツ圏がメイン市場です。

また、マースは米国企業ですがアメリカ進出は少し先になる模様。まずは欧州展開に力を入れると明言しています。

 

まとめ

健康食材市場の傾向について、ドイツのスタートアップという1つの側面から考察をまとめます。

集めた情報によれば、健康志向は世界規模のメガトレンドで、この分野の小さな新興企業は以前と比べて高く評価されていることがわかりました。

また、スニッカーズなどの高カロリー菓子という、どちらかといえば不健康な製品を主軸としていたマースが健康志向のセグメントに注力していることは1つのポイントだと思います。

 

個人的な話をすると、普段から健康食品の傾向をスーパーやドラッグストアでチェックしているのですが、昨年たまたまfoodspringの存在を知りました。

これまでプロテインバーに関しては、DMで扱っている全ての種類を試してみました。

やはり味が美味しいこと、種類の豊富さ、パッケージとECサイトのデザインの上品さが特徴と言えるのではないでしょうか。

その他、高価格帯ですが、ブランドのこだわりやコンセプトが窺えるのはD2Cならではの良さと思いました。消費者に買う理由を1つでも多く与えるというのは大事ですね。

foodspringの今後の展開にも注目していきます。

 

それではまた!

 

ブンデスリーガ放映権はどのように分配されるのか

こんにちは、Shootです。

今日はメディア収益がどのようにブンデスリーガクラブに分配されるのかを紹介します。

権限を持つ機関や契約条件、分配時のクライテリアに加えて最後に計算例を説明する予定です。

 

4シーズンで46億4000万€

2016年6月DFL(ドイツサッカーリーグ機構)は翌年2017/18から2020/21シーズンの国内メディア権利契約に関する発表を行いました。

国内のメディア権利料は46億4000万€で、この額は前契約期間のおよそ85%増です。

また、DFLの発表によると2005/06シーズンから287%の上昇を記録。

それに加えて、国外放映権収益が期待できるため、1シーズンあたり平均して14億€以上のメディア収益が計算できるといいます。

 

17の権利パッケージ

ブンデスリーガ1部2部、入れ替え戦、スーパーカップの放映権合わせて全17パッケージが売りに出されました。

Pay-TV ではSkyが土曜日のコンフェレンス(複数切り替え中継)、土日のライブ中継、2部の全試合の放映権を獲得。

Eurosportは金曜夜と入れ替え戦、スーパーカップのライブパッケージを確保しています。(現在はDAZN、Amazonが引継ぎ)

土日ハイライトはARD、ZDFは土曜日の試合の二次利用の他にスーパーカップとリーグ前後半戦の開幕試合をフリーで中継。

インターネットクリップはDAZN、SPORT1は日曜朝から金土の試合の二次三次利用権利を所持します。

さらに音声権利はARDとAmazonが取得。これがAmazonにとって初めての欧州サッカーの権利獲得でした。

 

メディア収益の分配方法

まず初めにドイツサッカーの組織構造を簡単に説明します。

以前2020最新ブンデスリーガ決算報告書からわかる4つのことという記事でも書いたのですが、組織のトップはDFB(ドイツサッカー連盟)です。

このDFBからブンデスリーガの運営権利を与えられているのが、DFL(ドイツサッカーリーグ機構)になります。

つまり、今回のメディア権利による収益は一度DFLの元に集まり、定められた条件に基づいて各クラブに分配されます。

 

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Verteilung der Medienerlöse für die Spielzeiten 2017/18 bis 2020/21 (https://www.dfl.de/de/hintergrund/vermarktung/dfl-medienerloes-verteilung/)

新たなメディア権利契約に伴って、次の4年間(17/18-20/21シーズン)の国内収益分配方法の新モデルが決定しました。

現在は上記の図のように4つの柱から構成されています。

①Bestand

ここが収益の70%と大部分を占めます。このカテゴリーは比較的イメージしやすいと思いますが、過去5年間の順位に基づいて算出されます。

具体的には、1部優勝チームが36ポイント、順位ごとに1ポイントずつ減少し2部の最下位が1ポイント。過去5シーズンのポイントの合計で評価されます。

特徴は過去5シーズンのポイント比率が直近から5:4:3:2:1となっていることです。

最終的に最もポイント数の多かったクラブは5.8%、1部最下位が2.9%、2部1位1.69%、2部最下位0.75%を受け取ることになります。

②Nachhaltigkeit 

「持続性」を意味するこのカテゴリーではその名の通り20年間の順位が評価対象となります。ポイントの分配は1部が91-19、2部が18-1と大きく開きがあり、80:20の割合で振り分けられています。

①と異なる点は2つ。

ポイントの比重が過去20年間同じで最終順位が1部2部分けられていないことです。

③Nachwuchs

このカテゴリーでは若手の育成を推奨するため、23歳以下の選手を積極的に起用したチームが評価されます。

上記2カテゴリーとは異なり、ポイント制ではなく選手のプレー時間に基づいて順位が算出され、その時間に比例して収益も分配されます。

ただし、入れ替え戦や延長戦は考慮されず、外国籍の選手は満18歳までに登録済みであることが条件です。

④Wettbewrb

このカテゴリーは①とほとんど同じですが、3つの例外があります。

・1部2部合同で順位付け

・1部クラブは24位以下にはならず、2部クラブは13位以上にならない

・1-6位クラブは全て6.5%

つまり、CL,ELなど国際大会に出場するクラブは同等の評価を受けることになります。

 

具体例

先ほど述べたように4年間で国内メディア収益は46億4000万€。

これは平均すると1年あたり12億€弱ですが、2017/18シーズンは約10億€、20/21は約14億€と累進的に分配されるようです。

実際にDFLのレポートを見ると2017/18シーズンのメディア収益は国際大会を含めて12億4790万€でした。

というわけで、17/18シーズンの国内メディア収益を10億€と仮定します。

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Verteilerschlüssel 17/18-20/21. Frankfurt, 24.11.2016

この図は2017/18シーズンの架空クラブの具体例を記述しています。

①過去5年間のブンデスリーガ順位に基づいて5:4:3:2:1の比率でポイントを合算すると、リーグ1部の8位でした。このカテゴリーは全体の70%なので約7億€。そのうち4.75%がこのクラブの取り分なので約3350万€となります。

 

②過去20年間の順位に基づいて評価をするとリーグ1部2部合同で24位でした。このカテゴリーは全体のわずか5%で順位も低いため取り分は約80万€。

余談ですが①の順位と大きく離れていることとこのカテゴリーでは1部2部獲得ポイントの差が大きいことから、このクラブは過去20年間の中で2部でプレーしていた時期がある可能性が考えられます。

 

③ここではポイント制ではなく、選手のプレー時間に比例します。合計4585分に対して約2000万€の2.23%がクラブに分配されました。

 

④このカテゴリーでは3つの例外を除いて①と同じルールなので大きな変動はないことが一般的。特に中堅クラブでは例外による影響も受けにくいと言えるでしょう。

全体の23%約2.3億€に対する5.7%なので①に続いて大きな割合を占めています。

従って、これら4つのカテゴリーを合算すると、2017/18シーズン約4790億€がこのクラブの分配されることがわかります。

 

最後にブンデスリーガクラブの具体的なメディア収益額を知りたい方はDFL公式ではないですが、上記方法に基づいて算出された表がリンク先に掲載されています。

https://www.fernsehgelder.de/2020-21/ranking/

 

まとめ

ここまで異なる通貨で莫大な数字から小数点を用いて算出方法を説明してきましたが、今回覚えておくべき重要なことは以下の3つです。

・国内メディア収益は4シーズンで46億4000万€

・17の権利パッケージ販売

・4つの評価軸に基づいてDFLが各クラブに分配

 

また、以前このようなツイートをしました。

今回の記事で紹介した権利の契約は20/21シーズンまで。当初の予定では、5月に新契約の発表でしたがコロナの影響を受けて先延ばしになっている状況です。

Pay-TVではSkyを筆頭にDAZNとAmazon、どこでブンデスリーガが放映されるのか、さらにその契約料にも注目です。

 

それではまた!

shootde.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アディダスの国際化とグローバル戦略②

こんにちは、Shootです。

今日は前回に引き続き、アディダスのグローバル戦略に注目していきたいと思います。

shootde.hatenablog.com

 

グローバルオペレーション

グローバルオペレーションとは

プロダクトの開発や製造計画、調達、物流を世界規模でコントロールすること。

この部門はサプライチェーン内での効率性を改善することに努め、プロダクトの入手や納品、さらには高い質基準を保証します。

 

3つの優先事項

グローバルオペレーションは世界的にベストなスポーツカンパニーであるというミッションを支えます。

これはまず第一に、この部門が「最高のプロダクト」を開発、そのためのモダンなインフラ、プロセス、システムを整備することが大事です。

これらは革新的な素材や製造方法にフォーカスすることを可能にします。

次にグローバルオペレーションの目標は「最高のサービス」を提供することです。

アディダスは革新的な配送コンセプトを発展させ、オムニチャネル・アプローチを通してサプライチェーンをより機敏にすることでこの目標に近づきます。

最後に、責任感ある方法で顧客に「最高の体験」を提供することに努めます。

この部門は消費者に質、サイズ、色、時間、場所という観点から正しいプロダクトを提供することでブランドの魅力を高めます。

 

戦略的優先事項としてのスピード

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adidas FY Results(https://www.adidas-group.com/en/investors/financial-reports/#/2019/

この「スピード」は前回の記事でも紹介しましたが、アディダスのビジネスプランである''Creating the new''3つの柱のうちの1つです。

アディダスはプロダクトのトレンドを常に抑えることと入手可能であることに努めます。

言い換えると、消費者需要により早く反応するために需要に即して卸売店、小売店、eコマース異なる販売チャネルでプロダクトを提供します。

2019年はこの戦略的優先事項において、以下2つのアプローチと共に更なる進歩を遂げました。

 

Fast creation

アディダスは、ある定まったスケジュール後にプロダクトを開発するのではなく、ワンシーズンの中で消費者需要を反映し、素早い補充を保証できるよう移行を強く進めています。

目標は8ヶ月以内の開発期間を維持すること。それにより、より良いマーケットインサイトに基づいた購入判断が下されます。

 

Fast replenishment 

「スピード」アプローチを生産時間にも適応させるために、グローバルオペレーションは2019年短期的な注文を可能にすること、そして生産リードタイムをさらに縮めることに従事しました。

その際、60日以内の生産リードタイムを維持することに成功。

リードタイムの短縮に加えて、売れ筋商品の迅速な補充へのキャパシティを拡大。カテゴリーを跨いだ全体の20%は30日以内のリードタイムを確立しました。これにより、より価値の高い売上と在庫回転率向上に繋がっています。

 

Speedfactory

迅速なスポーツシューズの新たな生産プロセスをテストするため、そして新たな製造技術を発展させるため、アディダスは2017年にOechsler AGと一緒に2つのスピードファクトリーを建設しました。

ドイツ・アンスバッハとアメリカ・アトランタの両工場での生産は2020年4月に閉鎖。しかしこのスピードファクトリーの技術は今後アジアの下請け会社で導入される予定です。

 

未来の素材調達

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Fragen&Antworten zur Adidas×Parley Partnerschaft(https://www.adidas-group.com/media/filer_public/b2/5a/b25a6ca9-d06e-4fb9-abb7-e43a6982afcc/2019_adidas_x_parley_qa_de.pdf)

グローバルオペレーションの更なるフォーカスはニットやサステナブル素材のシューズなど先進的な素材を開発すること。

非営利団体Parley for the Oceansとのパートナーシップの範囲でアディダスは2019年リサイクル素材の使用を強化しました。

環境に優しい素材はますます需要が高まっています。そのためアディダスは特別な調達ユニットを組織し、2019年には糸でできたプロダクトのために用いるParley Ocean Plasticを調達するグループに新しくフィリピンを追加。

加えて、ドミニカ共和国を調達国として受け入れることで調達活動を小さな発展途上島国にも拡大しました。

PARLEY OCEAN PLASTICは、海岸や海沿いの地域で、海に流入する前に回収されたプラスチック廃棄物をアップサイクルして生まれた素材です。未使用プラスチックの代わりに、この生まれ変わったリサイクル素材を使用し、adidas x Parleyのスポーツウェアをつくり出しています。
海沿いで回収されたプラスチック廃棄物は、梱包され、Parleyの関連サプライヤーに運ばれます。そこで細かく裁断され、高性能のポリエステル織糸に再生されます。これがadidas x Parleyコレクションの素材となるPARLEY OCEAN PLASTICとなり、スポーツにも地球環境にも有益な素材として再利用されます。

https://shop.adidas.jp/sustainability/parley-ocean-plastic/

 

独立した下請け会社

生産コストを競争力ある状態に維持するため、アディダスプロダクトはほぼ100%独立した下請け会社によって製造されています。

2019年は138社、336カ所と前年(130社、289カ所)比較で増加。

このうち73%はアジアに拠点を構えます。

これら下請け会社の特徴としては、アディダスから生産と納品に関する詳細な仕様書を受け取り、効率的でハイボリュームなシューズ、ウェア、アクセサリーの生産について基盤のある知識を持つこと。

さらに前年の26社から2019年には45社が重要な戦略的パートナーと指定され、生産の大部分を担っています。

この上昇は2019年の顧客需要の増加に伴いキャパシティを高めるため、新たなウェア製造会社を受け入れたことで起こりました。

また、アディダスは長期的なパートナーシップを重要視し、重要な戦略的パートナーのうち85%は10年以上、36%はすでに20年以上共に働いています。

 

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Adidas Group Management Report(https://report.adidas-group.com/2019/en/servicepages/downloads/files/our_company_adidas_ar19.pdf)

2019年カテゴリーごとの上位供給国と独立下請け会社全体の生産量は以下の通り

シューズ:ベトナム(43%)、インドネシア(28%)、中国(16%)

(約4億4800万足生産)

ウェア:カンボジア(23%)、中国(19%)、ベトナム(19%)

(約5億2800万着生産)

アクセサリー:中国(37%)、パキスタン(22%)、トルコ(18%)

(約1億2700万個生産)

 

まとめ

・アディダスはW杯やオリンピックなどの国際大会と共に成長

・調達や生産、納品など世界各地の利点を最大限に活用

・アジアを中心とした独立下請け業社との長期的なパートナーシップ

以上の観点から、国際化とグローバル戦略はアディダスが世界的なスポーツカンパニーとして成長した、そして今後も成功し続けるための重要なファクターであると言えます。

 

今回アディダスに関して調べていて、個人的には2点興味深いと思ったことがあります。

1つはアディダスの創業から国際的な企業になるまでの歴史です。今回のテーマではざっくりとしか取り上げていませんが。

例えば、前編で少しだけ紹介したプーマとの関係やFIFA、IOCなど国際的スポーツ機関との関係です。

残念ながらドイツ語ですが、面白いドキュメンタリーがあるので一応貼っておきます。

youtu.be

 

もう1つは環境に配慮した商品の需要がますます高まる傾向にあり、リーディングカンパニーの1つであるアディダスは積極的にキャンペーンを打ち出しているということです。

この記事ではParley for the Oceanを紹介しましたが、直近のニュースではサステナブルシューズを取り扱うAllbirdsとパフォーマンスシューズの共同開発を発表しました。

僕は一消費者として、以前は商品を買う際にその素材や製造工程が環境に配慮されているかはほとんど意識していませんでした。

しかし、それを意識して購入する消費者が予想以上に多く、企業側も注力していることに気が付きました。

企業が環境に配慮した取り組みを行なっているかどうかは今後より大事な指標になってくるでしょう。

 

それではまた!

 

shootde.hatenablog.com

 

アディダスの国際化とグローバル戦略①

こんにちは、Shootです。

現在大学のプロジェクトでアディダスの国際化について調べているので、今回はそれを日本語でレポートしたいと思います。

長くなるので記事は前半と後半に分けて書きます。 

 

Die Adidas AG

アディダスグループの正式名称ですが、''die''は定冠詞、''AG''はAktiengesellschaftと言って株式会社を意味します。

現在はアディダスとリーボック2つのブランドを中心にシューズ、ウェア、アクセサリー類、そして時計やコスメなどのライセンス商品を販売。

19年の売上高は前期比7.8%増の236億4000万ユーロで5年連続の記録更新でした。

ドイツ・バイエルン州のHerzogenaurachにヘッドクウォーターを構えます。

 

余談ですが、アディダス創業者アドルフ・ダスラーの兄ルドルフ・ダスラーが創業したプーマも同じ街を本拠地としています。この有名な兄弟争いは息子の世代まで続くのですが、特に興味深いエピソードが「ペレ協定」です。

当時のスーパースターであるペレを奪い合うことで価格の高騰は避けられないと判断し、両者は彼にだけは手を出さないという取り決めを行います。

しかし、結果的にプーマはこの約束を守りませんでした。そして、1970年メキシコW杯のある試合でキックオフ直前にペレが審判に声を掛け靴紐を結び直し、画面いっぱいにプーマのシューズが映し出されるという巧妙な宣伝方法を用いて売上を伸ばしたのです。

 

国際化の歴史

1924 「ダスラー兄弟商会」設立。兄ルドルフは営業マン、弟アドルフは技術者

1928 陸上選手Lina Radkeはアムステルダム五輪でアディダスシューズを履き金メダル

1936 ベルリンオリンピックで躍進

1949 49歳で弟アドルフは自身の愛称アディと名字ダスラーを併せた「アディダス社」を設立

1954 ドイツ代表がW杯決勝で負け無しハンガリーを破った『ベルンの奇跡』この優勝をもたらした超軽量で取り替え式という画期的なスパイクが話題に

1970 メキシコW杯で初の公式ボール「Telster」を提供。馴染みのあるサッカーボール柄はこの時白黒テレビに映りやすいようデザインされた

1972 ミュンヘン五輪に注目が集まり、そのタイミングで新たなロゴを発表。それが現在Originalsのロゴである三つ葉だ

1982 アドルフの息子ホルストが電通と共同で国際スポーツマーケティング会社ISLを設立し、FIFA、IOC、IAAFなどと関係を持つ

1990 ホルストの死後、アドルフの娘たちは株式を売却し、ダスラー家の時代が終焉

1993 新たなフランス人CEORobert Louis-Dreyfusが迷走していたアディダスの経営を立て直す

1995 フランクフルト証券取引所に上場

1997 スポーツブランドサロモンを傘下に入れ、Adidas-Salomon AGと名称変更。この時米テーラーメイドゴルフも加わる

2000s ライフスタイルセグメントにも進出。Yohji YamamotoやStella MacCartneyなどとコラボ

2006 サロモン売却の翌年、リーボックをグループに加える

 

国際的な企業戦略

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adidas FY Results(https://www.adidas-group.com/en/investors/financial-reports/#/2019/

アディダスは2020までの戦略的なビジネスプランとして''Creating the new''を掲げています。

これは特有のカルチャーと3つの戦略的柱から構成されていますが、国際化がテーマなのでCitiesに注目します。

 

都市化は以前と同様にメガトレンドです。現在、世界人口の大多数はGDP約80%が生み出される都市に住んでいます。そして、そこで消費者の知覚やパースペクティブ、購買決断などグローバルなトレンドが生み出されているのです。アディダスは影響力の強い都市の消費者獲得を目指し、以下の6つの大都市をフォーカス・シティと定めています;

ロンドン、ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、上海、東京

アディダスは消費者との交流を強めることで、居住地、職場、スポーツをする場所、買い物するお店などあらゆる接点を超えて並外れた体験を彼らに提供することを目指します。

 

North America

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adidas FY Results(https://www.adidas-group.com/en/investors/financial-reports/#/2019/

上記の図をご覧の通り、各地で2019年グループ売上は向上。地域別のセグメントに関しては特に北米に注力しています。

北米はスポーツ用品業界にとって最大の市場でシェアは約40%です。

しかし、それと同時にここでアディダスは他の地域と比べて小さいシェアであり、北米には地理的に最大の成長機会があるとレポートの中でも明言。

この地域におけるブランドの全体的なポジションを押し上げるために北米を戦略的な優先事項とし、アディダスは既にこの地域への投資を大幅に増やして消費者にとっての重要性と知名度を高めています。

それに関連して近年組織構造への投資を増やしています。

例えば、ポートランドの米国本社の拡大やマーケティングイニシアティブの強化、さらにはペンシルバニアの新たな物流センターの開業とともに販売インフラを発展させました。

ここでの目標は、アディダスブランドの売上を2020年までに50億ユーロに増やすこと。

グローバル関連で他に付け加えると、近年DTCを含めたeコマース分野に注力しており、売上30億ユーロ、成長率34%を記録。その筆頭が大中華圏です。

 

次にグローバルオペレーションを取り上げます。

この記事の続きは近日公開予定です。

shootde.hatenablog.com

 

 

【50+1ルール3/3】SAP創業者とドイツサッカー

こんにちは、Shootです。

今回はSAP創業者の1人Dietmar Hopp(ディートマー・ホップ)とホッフェンハイムの関係性、そして一部ファンによる執拗な誹謗中傷の理由について取り上げます。

 

50+1ルール第3弾として話を進めていきます。このルールを知らない方は過去記事で簡潔に説明しているのでご覧ください。

shootde.hatenablog.com

また、第2弾ではこのルールにまつわる議論と長年廃止を主張してきたハノーファー会長Martin Kindを取り上げています。こちらも興味のある方は是非どうぞ。

shootde.hatenablog.com

 

 

試合中断と異例のボール回し

2月29日に行われたブンデスリーガ第24節TSGホッフェンハイム対バイエルンミュンヘン戦で一部バイエルンファンにより、DFBに対する抗議とホッフェンハイム会長ホップ氏に対する誹謗中傷横断幕が掲げられ、試合が2度中断する事態が発生しました。

主審は中断を決め、バイエルンの選手、スタッフたちは観客席に向けて訴えるもこの事態は収まらず、一度ロッカールームに退くことに。

その後、ピッチに戻ってきた両チームの選手たちは残り時間13分、ただ平和的にボール回し続け、試合を終わらせます。

なお、この行動に観客席からは拍手が送られました。

 

事件の真相は

試合後、バイエルンのルメニゲ代表は試合終盤のボール回しに関して、選手たちが抗議のため主審と話し合って決めたことだと説明。また、「ファンブロックで起こったことを恥ずかしく思う。ホップに謝ったが、そもそも謝って済むことでない」とコメントしました。

 

ではなぜこのような事態に至ったのか。

この騒動の発端はドルトムントファンに対するDFBの制裁にあります。

遡ること10年以上前。2008年には既にドルトムントファンブロックに「標準を定められたホップの肖像画」の横断幕が出現。彼らの主張はホッフェンハイムが50+1ルールを破り、ブンデスリーガの平等性に則っていないというものでした。

また、ドルトムントのハンス=ヨアヒム・ヴァツケ代表は最も厳しい批判者で、人工クラブであると揶揄してきました。彼らから見れば、まさに「サッカーの商業化」の象徴というわけです。

(事実上のオーナーであったホップは2015年に正式に50+1ルールの例外が認められ、ホッフェンハイムの96%の株式を取得しています。)

 

それからこの両クラブの対戦では度々ホップ会長に対する非難が見られ、2019年12月の試合で再びドルトムントファンが誹謗中傷の横断幕を掲げたことをきっかけにDFBはついに制裁を加えます。

その内容は50.000€の罰金と連帯責任として今後2年間ドルトムントファンはホッフェンハイムのホームスタジアム立ち入り禁止というもの。

www.dfb.de

この決定を受けて第24節では他クラブウルトラスから抗議が起こり、ホッフェンハイム対バイエルンの他にもドルトムント対フライブルク、ウニオン・ベルリン対ヴォルフスブルク、ケルン対シャルケなどでも同様に誹謗中傷横断幕や侮辱する歌声が響きました。 

 

そもそもディートマー・ホップとはどんな人物か

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彼は1940年生まれの80歳。少年時代は地元クラブであったTSGホッフェンハイムのユースチームでプレーしていました。大学卒業後はIBMに就職。1972年に4人の同僚とSAPを創業します。

SAPはマイクロソフト、オラクルに次いで世界3番目のITコンツェルン 、彼はいまだに5.52%の株を保有しドイツ大富豪の1人と言われています。

また、1995年には自らの名前の財団を設立し、これまでに約600M€を公益プロジェクトに注ぎ込んでいます。

 

1990年に当時8部であった古巣TSGホッフェンハイムの支援を開始。2005年には現RBライプツィヒスポーツディレクターのラルフ・ラングニック氏を招き入れ、2007年にブンデスリーガ2部に参戦、翌年1部昇格を果たしました。

さらにホップ会長は2016年に当時U-19を率いていた28歳のユリアン・ナーゲルスマン監督(現RBL)をトップチームに引き上げたことでも有名です。

選手への投資の他に2つのスタジアムとさらにモダンなトレーニングセンターなど合計で350M€を投資。現在ホッフェンハイムはトランスファー収入のおかげでホップに依存していないと言われています。

 

SAPとサッカー

SAPのテクノロジーはホッフェンハイムだけではなく、ドイツサッカーに大きな貢献をしてきました。

チップを使用したトラッキングシステムでデータを一元管理し、選手のコンディションを把握、怪我を予防。

同社はさらにビッグデータから試合分析する「HANA」やドルトムントが導入したことでも話題となったパストレーニングマシン「フットボナウト」、認知力と集中力を養う「フェリックス」などを開発、ドイツ代表や国内外数クラブと業務提携しています。


High-Tech Training bei der TSG Hoffenheim | SWR | Sport im Dritten


Big Data Virtual Tour: Football Analysis with SAP HANA

 

まとめ

知れば知るほど両サイドに正義があるため、一部ファンによる抗議やDFBの今後の対応にここでは触れず、「ホップ氏のホッフェンハイム支援」に焦点を当てて考えをまとめます。

 

まず初めに述べておきたいのは、SAP創業者ホップ氏、及び同社テクノロジーのサッカー界における貢献度の高さです。これは上述のようにホッフェンハイムだけでなく、他クラブや代表チームも恩恵を受けています。

次に支援動機と期間です。個人的には初めて知ったときに素晴らしいストーリーだと思いました。

彼は自らがプレーした田舎のクラブに細々と支援を始め、長年に渡って成長を促してきました。結果としてクラブはブンデスリーガに定着し、国際大会の出場も果たしています。

たとえ外部資本とはいえ下位リーグからの底上げや上位リーグの競争力向上、国際大会でのプレゼンスという点においてはドイツサッカーに良い影響をもたらしていると言えるでしょう。

また、DFBが実際に50+1ルールの例外を認めているように、ブンデスリーガの秩序を乱す不当な介入でないことがわかります。

 

さて、論点は50+1ルールです。DFLはこのルールの廃止を望んでいるとも言われ、だからこそホップ氏サイドに付いているという意見もあります。

いずれにせよ、このままずっと現状維持というのは厳しいのかなと思っています。

これまで3記事に渡ってこのルールを違う角度から取り上げきました。以前も書きましたが、ドイツサッカーの伝統、アイデンティティを今後も保持し続けてほしいというのが1サッカーファンとしての願いです。

その一方で、まさにまとめの序盤に書いたように正しい介入の仕方をすれば非常に合理的で、クラブやリーグの魅力を高めることができます。

 

この事例で分かったことは、伝統と地域密着があるからこそ変化が難しいということでしょうか。

読者の皆さんはこのドイツ特有の50+1ルールについてどう考えますか?

 

それではまた。

 

2020最新ブンデスリーガ決算報告書からわかる4つのこと

こんにちは、Shootです。

今回はDFL(ドイツサッカーリーグ機構)が発表している2020年最新の『2018/19シーズン決算報告書』を読み、重要な数字とそこからわかることをピックアップしようと思います。

www.dfl.de

 

ブンデスリーガの構造

まず初めにブンデスリーガの組織関係を簡単に説明します。

リーグは1部、2部それぞれ18チームの合計36チームから構成されています。この上位2カテゴリーを管轄するのがDFLです。

 

DFLはDFB(ドイツサッカー連盟)と''Grundlagenvertrag''という契約を結んでおり、ブンデスリーガのオーガナイズとそれに伴う経済的活動の権利が与えられています。

さらに厳密に言うと、このDFLは非営利社団法人のため100%子会社であるDFL GmbH(有限会社)がビジネスの執行を担っています。

 

大まかなお金の流れは、ブンデスリーガ1部、2部のメディアやライセンス権利によって得られた収入をDFLが各クラブに分配。

各クラブは、現時点では得られた収入の6.25%をDFLに支払うことになっています。

 

ブンデスリーガ1部

2018/19シーズンはブンデスリーガ1部の18クラブが史上最高額約40億2000万€の売上高を達成。これは前シーズンから5.4%の上昇で15回連続更新となりました。

このポジティブな経済発展はブンデスリーガが社会の中で高く承認されていることに一致します。

定評のある市場調査会社Kantarによると回答者の74%が「揺るぎない社会の構成要素である」とし、それぞれ67%が「ブンデスリーガが人々を結びつける」、「若いスポーツ選手にとって模範であり、モチベーションである」という考えを持っています。

 

世界一の観客動員数であることも忘れてはいけません。1試合あたり平均して42.738枚ものチケットが売れ、その99%が「他人にスタジアム観戦を勧める」と回答していることは、ブンデスリーガの試合体験に対する高い満足度を象徴しています。

さらに2018/19シーズンは1試合平均のゴール数が3.2とヨーロッパで最もエキサイティングなリーグでした。(プレミア2.8、セリエA2.7、ラ・リーガ、リーグ・アン2.6)

 

収益源

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公開データを基に筆者作成
チケット5億2010万€(12.9%)
スポンサー8億4540万€(21.0%)
メディア14億8300万€(36.9%)
トランスファー6億7510万€(16.8%)
マーチャンダイジング1億7600万€(4.4%)
その他3億2000万€(8.0%)
合計40億1960万€

 

トランスファー収益が過去最高額を達成。前シーズンから約4.5%up。

最大の収益源はメディア権利からの収益。前シーズンから約4%up。

一方でチケット、スポンサー、マーチャンダイジングが3-4%down。

この原因はブンデスリーガの構成にあります。つまり、多くの会員を有し、幅広いファン層とスポンサー、パートナー数の多いクラブが降格することで、特に広告や物販に影響を与えるということ。これは後述の2部のデータを見れば明らかです。

 

また支出面で特徴的なのが、トランスファー費用。クラブは8億€以上移籍金に充てていますが、2015/16シーズンと比較すると65%up。これはインターナショナルトランスファーの傾向が如実に表れています。

支出全体で39億€と4.8%up、その中で37%と大きな割合を占めるのが人件費でこちらも前年比8.6%up。

 

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自己資本率は18億€と前年比較13%大幅up。過去データを見ても順調な推移です。一般的に倒産しにくいと言われる40%を上回り、財政上安定していることがわかります。

 

ブンデスリーガ2部

収益源

チケット1億3130万€(16.8%)
スポンサー1億5810万€(20.2%)
メディア2億5050万€(32.0%)
トランスファー9630万€(12.3%)
マーチャンダイジング3830万€(4.9%)
その他1億750万€(13.8%)
合計7億8200万€

このシーズンはレコードイヤーで7億8200万€を記録、これは前年比28.5%up。

最大の収益源はメディア権利。2億5000万€以上で全体の32%、1億5800万€(20%)のスポンサーと合わせると上位2つで過半数を超え。

 

高まった人気が経済的な成功に繋がったとの見解。ブンデス2部の国民の知名度は85%と2013年の75%から一貫して上昇しています。

観客数においては、チケット販売1試合平均18.980枚と8.6%up。

これらの数値は前年1部から降格してきたクラブと密接に関わっていると言えるでしょう。というのも、そのクラブは人気の高いハンブルガーSVと1.FCケルンであったからです。

 

支出も7億6800万€と前シーズンから32%upで1部と同様に選手とトレーナー人件費が高い割合を占めます。

2部18クラブは約9100万€移籍に費やし、前シーズンと比べると2倍以上の額。

反対に移籍による収益も約9630万と€32%upしたため、2018/19シーズンはトランスファーにおいて530万€プラスでした。ちなみに前シーズンは3040万€プラス。

 

持続的な上昇

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ドイツブンデスリーガは15年間連続して売上高の記録を塗り替え、1部2部合計で48億€に達しました。

最大の収益源は国内外大会のメディア権利からの収益で全体の36%を占めます。2016/17シーズン以前は28%に留まっており、それ以降から明らかに上昇したブンデスリーガへの国内メディア契約は今後も高い報酬を支払うでしょう。

 

収益が増えた一方で支出額も過去最高を記録しました。その中で1部、2部クラブは施設などを含め、育成年代にも過去最高額を投資。累積して1億8600万€となり、前年比約1000万€増額しました。

 

2018/19シーズンは36クラブ中28クラブが黒字を達成。2年前は25クラブでした。1億4150万€の利益は過去5年間で2番目の結果です。

このシーズンで1部2部に直接的、間接的に従事した人がなんと56.081人。サッカーを起点に多くの雇用が生まれていることがわかります。

 

まとめ

細かい数字が並び全体像を把握しづらいので、タイトルの通り4つにまとめます。

 

①売上高は15年連続記録更新。それに伴ってクラブが使える金額も大きくなっており、事業規模が拡大傾向でした。

②独自の厳しいライセンス制度に加え、クラブの黒字化や自己資本率の推移から財政的な安定が大きな特徴。

③Jリーグと欧州主要リーグの違いでもありますが、ブンデスリーガも例の如くメディア収益が全体の大部分を占めています。スポンサーに依存しないクラブ経営という観点から、この収入源のもたらすメリットの大きさが理解できます。

④この年のブンデス2部の経済発展は前年1部から降格した2クラブの影響が大きいと考えられるでしょう。地域に密着したクラブは2部に降格しても多くのファンを引き連れ、経済効果を生むことがわかりました。

 

現在のコロナ状況化でどのリーグ、クラブも大きな打撃を受けていることは間違いありません。残念ながら、以上で見てきたレポートの経済発展傾向は一変するでしょう。

全てのクラブにはどんな方法でも存続してほしい、という思いで動向に注目しております。

 

それではまた!

 

shootde.hatenablog.com

 

【50+1ルール2/3】今こそブンデスリーガの制度を見直すべきなのか

こんにちは、Shootです。

 

前回50+1ルールとその例外についてレバークーゼンの事例とともに簡潔に説明しました。

ブンデスリーガ特有のこのルールを理解した前提で話を進めて行きますので、まだ読んでない方はぜひご覧ください。

shootde.hatenablog.com

 

さて、今回はその50+1ルールにまつわる議論と長年廃止を主張してきたハノーファー会長Martin Kind(マーティン・キント)を取り上げます。

 

賛否両輪 

50+1ルールを簡潔に説明すると、過半数以上の議決権を親クラブが持つ必要があり、外部投資家の独断でクラブ運営をすることを防ぐためのドイツ独自のルールです。これはDFB(ドイツサッカー連盟)によって定められており、例外を認めるのもまた同機関です。

このルールを含む厳しいライセンス制度が「ブンデスリーガクラブは健全経営である」と言われる所以でしょう。これはドイツサッカーファンの誇りです。

 

ルール制定の名目は、ファンとクラブのアイデンティティの保持し、競技の不可侵性を守ること。その一方で、詳細は述べませんがヨーロッパの競争法、資金流通の自由権に関して批判的な見方やカルテル法的な懸念もあるようです。

長年に渡って議論されてきたテーマですが、ここからは「50+1ルールの廃止」に賛成派、反対派の代表的な意見を紹介します。

 

ルール廃止に賛成
 
・ドイツでのみ適応されるルールであるが故に、ドイツクラブは金銭的に恵まれた他のヨーロッパクラブに対して不利であり、今後も存続すればドイツサッカーが国際的に意味を成さない恐れがある
・廃止することで国際的トップクラブとの財政的な溝を埋め、ドイツクラブの成功を援助するための資金を獲得できる
・批判者は、国際的クラブがすでにほとんど商業的で、継続的な高パフォーマンスを発揮するために投資家を頼りにしていることを顧みない
  
ルール廃止に反対
・投資家による決議権の継承と彼らの経済的成功への関心を通して、クラブ運営はただ売上拡大にのみ注力する
・ドイツサッカーカルチャーへの不安があり、特にファン、メンバーと彼らのクラブの強い結びつきが危険に晒される。民主主義的な管理は弱まり、彼らは切り離されたクラブ運営への議決権を持たない
・レアル、バルサ、バイエルンは50+1ルール内で成功を納めている。スポーツ的な成功とは関係なく、それよりも裕福なクラブと財政難クラブの格差が広がる
・イングランドで起こっているように、多くのファンが払えないようなチケット価格の高騰が起きる。そこではますます多くの経済力のある観光客が試合に訪れる
 

 

これらを踏まえて、個人的に付け加えたいことは以下の2点です。

①論点は国際大会か

以上で紹介した意見以外にも目を通してきましたが、多くのファンはこの伝統的なドイツ特有の制度に納得しているようです。

議論の際、悪い例として必ず挙げられるのがイングランドプレミアリーグのチケット価格高騰。その点ブンデスリーガは最安値10€代から購入可能で、この良心的な価格設定はドイツの地元ファンにとって大きな意味を持ちます。(参照:RBライプツィヒのチケット料金表)

 

それでもこの議論が繰り広げられる背景には、ここ数年ブンデス勢が国際大会で満足のいく成績を収めていないことがあります。(2020年4月時点)

資金力のある他リーグクラブに競り勝ち、ヨーロッパで成功する姿を見たいファンの気持ちを理解すれば、主張する理由もわかります。

 

②ブンデスクラブの経営は順調

外部投資家からの資金なしに売上が年々伸びており、制度として全く問題がないことを知っておくべきでしょう。

DFLの決算報告書によると、2018/19シーズンはブンデス1部の18クラブ全体の売上高が史上最高額40億€に達しました。

自己資本比率も順調な推移を見せています。よって、今すぐに50+1ルールを廃止し、大きな改革を起こす必要があるのかと言われれば疑問です。

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DFL Wirtschaftsreport 2020

 

廃止運動の主役

さて、この50+1ルール廃止に関する議論を扱う上で取り上げなくてはいけない人物がハノーファー96会長兼ハノーファー96を運営する会社の経営者でもあるマーティン・キント氏でしょう。

彼は10年以上前からこのルール反対を掲げています。

 

まずは2009年11月10日にリーグ連盟の総会で50+1ルールの廃止を申請しました。

その根拠としては、このルールはクラブと潜在投資家にとって競争侵害を意味するというもの。

結果的に36クラブや連盟によって却下されるも、このアクションはルールの妥当性について考えさせるきっかけを与えます。

その後、2013年にはレバークーゼン法として知られる例外法の内容が変更されました。

もともと存在していた「1999年1月1日以前からの20年以上に渡るクラブ援助」という条件から日付が排除されます。

つまり、1999年以降に関与したクラブでも今後20年間の援助を続けることで例外が認められうるということが正式に決まりました。

 

そして、キント氏がハノーファーを援助して20年が経過する2018年を前にして彼の動向が再び注目を集めます。メディアが一連の騒動を取り上げ、最大のスポーツ紙Kickerはキント氏と専門家によるトークセッションを企画しています。

www.kicker.de

キント氏の主張は「ブンデスリーガでの競争平等」と「ブンデス勢の国際大会の競争力」でした。

結果的に条件を満たさないとし、ハノーファーの例外は認められず、2019年にクラブは申請の取り下げを発表。

 

キント氏に対して個人的な利害関係に基づいた悪いイメージが先行していることは事実ですが、今後の議論の展開は注目に値すると言えるでしょう。

 

まとめ

ここまで50+1ルール廃止に対する賛否両論やハノーファーのマーティン・キント会長の事例を紹介しましたが、このタイミングで取り上げたのには訳があります。

それは、現在のコロナショックによる経済的な打撃を受けて、再び議論が活発になっているからです。

CHECK24 Doppelpass: Kippt Corona jetzt die 50+1-Regel? Heiße Diskussion im DOPA

 

個人的には外部投資家の資金によってクラブが活性化し、それがリーグの刺激になると考えているので、前提として肯定的な意見を持っています。

しかし、ドイツブンデスリーガの伝統や固有のアイデンティティは非常に価値のあるものだと認識していて、今後も失わないでほしいという気持ちが強いです。

 

ブンデスリーガ、さらにはサッカー業界に限らず、今が歴史的な転換期であることは間違いないしょう。

 

危機を乗り越えるためには今まで以上に変化を受け入れ、柔軟な対応が必要。ルールの一部変更や条件の追加は現実的なオプションになるかもしれません。

 

シリーズ最終回は、ブンデス8部からいまや1部常連になったTSGホッフェンハイムを取り上げます。

それではまた次の記事で!

shootde.hatenablog.com