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【50+1ルール3/3】SAP創業者とドイツサッカー

こんにちは、Shootです。

今回はSAP創業者の1人Dietmar Hopp(ディートマー・ホップ)とホッフェンハイムの関係性、そして一部ファンによる執拗な誹謗中傷の理由について取り上げます。

 

50+1ルール第3弾として話を進めていきます。このルールを知らない方は過去記事で簡潔に説明しているのでご覧ください。

shootde.hatenablog.com

また、第2弾ではこのルールにまつわる議論と長年廃止を主張してきたハノーファー会長Martin Kindを取り上げています。こちらも興味のある方は是非どうぞ。

shootde.hatenablog.com

 

 

試合中断と異例のボール回し

2月29日に行われたブンデスリーガ第24節TSGホッフェンハイム対バイエルンミュンヘン戦で一部バイエルンファンにより、DFBに対する抗議とホッフェンハイム会長ホップ氏に対する誹謗中傷横断幕が掲げられ、試合が2度中断する事態が発生しました。

主審は中断を決め、バイエルンの選手、スタッフたちは観客席に向けて訴えるもこの事態は収まらず、一度ロッカールームに退くことに。

その後、ピッチに戻ってきた両チームの選手たちは残り時間13分、ただ平和的にボール回し続け、試合を終わらせます。

なお、この行動に観客席からは拍手が送られました。

 

事件の真相は

試合後、バイエルンのルメニゲ代表は試合終盤のボール回しに関して、選手たちが抗議のため主審と話し合って決めたことだと説明。また、「ファンブロックで起こったことを恥ずかしく思う。ホップに謝ったが、そもそも謝って済むことでない」とコメントしました。

 

ではなぜこのような事態に至ったのか。

この騒動の発端はドルトムントファンに対するDFBの制裁にあります。

遡ること10年以上前。2008年には既にドルトムントファンブロックに「標準を定められたホップの肖像画」の横断幕が出現。彼らの主張はホッフェンハイムが50+1ルールを破り、ブンデスリーガの平等性に則っていないというものでした。

また、ドルトムントのハンス=ヨアヒム・ヴァツケ代表は最も厳しい批判者で、人工クラブであると揶揄してきました。彼らから見れば、まさに「サッカーの商業化」の象徴というわけです。

(事実上のオーナーであったホップは2015年に正式に50+1ルールの例外が認められ、ホッフェンハイムの96%の株式を取得しています。)

 

それからこの両クラブの対戦では度々ホップ会長に対する非難が見られ、2019年12月の試合で再びドルトムントファンが誹謗中傷の横断幕を掲げたことをきっかけにDFBはついに制裁を加えます。

その内容は50.000€の罰金と連帯責任として今後2年間ドルトムントファンはホッフェンハイムのホームスタジアム立ち入り禁止というもの。

www.dfb.de

この決定を受けて第24節では他クラブウルトラスから抗議が起こり、ホッフェンハイム対バイエルンの他にもドルトムント対フライブルク、ウニオン・ベルリン対ヴォルフスブルク、ケルン対シャルケなどでも同様に誹謗中傷横断幕や侮辱する歌声が響きました。 

 

そもそもディートマー・ホップとはどんな人物か

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彼は1940年生まれの80歳。少年時代は地元クラブであったTSGホッフェンハイムのユースチームでプレーしていました。大学卒業後はIBMに就職。1972年に4人の同僚とSAPを創業します。

SAPはマイクロソフト、オラクルに次いで世界3番目のITコンツェルン 、彼はいまだに5.52%の株を保有しドイツ大富豪の1人と言われています。

また、1995年には自らの名前の財団を設立し、これまでに約600M€を公益プロジェクトに注ぎ込んでいます。

 

1990年に当時8部であった古巣TSGホッフェンハイムの支援を開始。2005年には現RBライプツィヒスポーツディレクターのラルフ・ラングニック氏を招き入れ、2007年にブンデスリーガ2部に参戦、翌年1部昇格を果たしました。

さらにホップ会長は2016年に当時U-19を率いていた28歳のユリアン・ナーゲルスマン監督(現RBL)をトップチームに引き上げたことでも有名です。

選手への投資の他に2つのスタジアムとさらにモダンなトレーニングセンターなど合計で350M€を投資。現在ホッフェンハイムはトランスファー収入のおかげでホップに依存していないと言われています。

 

SAPとサッカー

SAPのテクノロジーはホッフェンハイムだけではなく、ドイツサッカーに大きな貢献をしてきました。

チップを使用したトラッキングシステムでデータを一元管理し、選手のコンディションを把握、怪我を予防。

同社はさらにビッグデータから試合分析する「HANA」やドルトムントが導入したことでも話題となったパストレーニングマシン「フットボナウト」、認知力と集中力を養う「フェリックス」などを開発、ドイツ代表や国内外数クラブと業務提携しています。


High-Tech Training bei der TSG Hoffenheim | SWR | Sport im Dritten


Big Data Virtual Tour: Football Analysis with SAP HANA

 

まとめ

知れば知るほど両サイドに正義があるため、一部ファンによる抗議やDFBの今後の対応にここでは触れず、「ホップ氏のホッフェンハイム支援」に焦点を当てて考えをまとめます。

 

まず初めに述べておきたいのは、SAP創業者ホップ氏、及び同社テクノロジーのサッカー界における貢献度の高さです。これは上述のようにホッフェンハイムだけでなく、他クラブや代表チームも恩恵を受けています。

次に支援動機と期間です。個人的には初めて知ったときに素晴らしいストーリーだと思いました。

彼は自らがプレーした田舎のクラブに細々と支援を始め、長年に渡って成長を促してきました。結果としてクラブはブンデスリーガに定着し、国際大会の出場も果たしています。

たとえ外部資本とはいえ下位リーグからの底上げや上位リーグの競争力向上、国際大会でのプレゼンスという点においてはドイツサッカーに良い影響をもたらしていると言えるでしょう。

また、DFBが実際に50+1ルールの例外を認めているように、ブンデスリーガの秩序を乱す不当な介入でないことがわかります。

 

さて、論点は50+1ルールです。DFLはこのルールの廃止を望んでいるとも言われ、だからこそホップ氏サイドに付いているという意見もあります。

いずれにせよ、このままずっと現状維持というのは厳しいのかなと思っています。

これまで3記事に渡ってこのルールを違う角度から取り上げきました。以前も書きましたが、ドイツサッカーの伝統、アイデンティティを今後も保持し続けてほしいというのが1サッカーファンとしての願いです。

その一方で、まさにまとめの序盤に書いたように正しい介入の仕方をすれば非常に合理的で、クラブやリーグの魅力を高めることができます。

 

この事例で分かったことは、伝統と地域密着があるからこそ変化が難しいということでしょうか。

読者の皆さんはこのドイツ特有の50+1ルールについてどう考えますか?

 

それではまた。