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【ブンデスリーガ決算書②】チケット収入大幅減も19/20業績悪化は最小限

こんにちは、Shootです。

 

前回、19/20欧州サッカーへのコロナ影響は?と題して、ブンデスリーガの決算レポートから売上高とその内訳を紹介しました。

今回はその後編として、重要指標や最終損益などのパフォーマンスを1部・2部に分けて見ていきたいと思います。

まだ前編をご覧になってない方はお先にこちらをどうぞ↓

shootde.hatenablog.com

 

ブンデスリーガ1部業績

早速ですが、B/Sに関して3点言及します。

クラブ資産の合計額は約4%増加し、39.5億(3,950m)ユーロと過去最高を記録。

中でも選手の資産価値増大が目立ちました。(表2行目"Spielervermögen")

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https://media.dfl.de/sites/2/2021/03/D_DFL_Wirtschaftsreport_2021_M.pdf

負債額は前年レポートの約14.6億ユーロ(1,459m)から18.1億ユーロ(1,810m)と大幅に増加。(表4行目"Verbindlichkeiten")

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https://media.dfl.de/sites/2/2021/03/D_DFL_Wirtschaftsreport_2021_M.pdf

それに伴い企業の安定性を測る重要な指標である自己資本比率は43.7%と僅かに低下(前期47.7%)。それでも比較的高い水準を維持していることは注目に値すると言えます。

 

次にP/Lの費用に目を向けると、収益の減少とは対照的にクラブ費用が前年比1.7%増加しています。

これはクラブ側の努力にも関わらず、確立されたコスト構造の短期的削減が困難であることを意味しています。

つまりそれは既存の契約関係によるものが大きく、具体的にはコーチと選手の給与(表1行目"Personal Spielbetrieb")が全体の36.56%と最大の項目です。この項目の費用額は前年比1%増でした。

 

また、ユース費用(表5行目"Jugend/Amatuere/Leistungszentrum")が増加していることが以下の表からわかります。割合にすると前年比6.9%増です。

これは育成年代への必要な投資を止めていないことを意味し、ブンデスリーガの方針が窺えるポイントだと思います。

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https://media.dfl.de/sites/2/2021/03/D_DFL_Wirtschaftsreport_2021_M.pdf

 

最終損益は収益3,802mに対し、費用3,957.6mでマイナス155.6mユーロとなりました。

近年利益を出し続けてきたブンデスリーガは9年ぶりに最終赤字を計上。同シーズン当期純利益を計上したクラブは8/18でした。

EBITDA(税引前利益に支払利息、減価償却費を加えた利益)ベースでは16クラブが最終黒字を達成とのこと。

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https://media.dfl.de/sites/2/2021/03/D_DFL_Wirtschaftsreport_2021_M.pdf

 

ブンデスリーガ2部業績

短期的なコスト削減における課題はブンデスリーガ2部にも当てはまります。

B/Sの合計額が652.1mと前年から18.2m伸ばしてレコード更新。これは割合にして2.9%増に相当します。

クラブ資産の増加に関して、昇降格クラブの財政基盤が少なからず影響していることは忘れてはいけません。

以下の表はブンデスリーガ2部のB/S資産の部。最終行赤字の"Summe"は合計額を表しており、前年から増加していることがわかります。

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https://media.dfl.de/sites/2/2021/03/D_DFL_Wirtschaftsreport_2021_M.pdf


 

2部リーグ全体の最終損益は57.8mのマイナスでシーズンを終了。7/18クラブが最終黒字を計上しました。 

また、前出のEBITDAベースでは15クラブが利益計上。

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https://media.dfl.de/sites/2/2021/03/D_DFL_Wirtschaftsreport_2021_M.pdf

 

税金と雇用

最後に税金と雇用に関するレポートも記載されていたので簡潔に紹介します。

1部・2部に所属する36クラブは合計14億ユーロ(1,400m)を税金及び社会保険料として納めました。これは前年比15.5mユーロ増で過去最高額です。

 

雇用に関しては合計52,786人が直接的、または間接的にドイツのプロサッカーに従事しているとのこと。

クラブスタッフ("Lizenznehmer")は前年よりも793人増加し、19/20シーズンは16,449人の従業員が働いていました。

加えて、クラブ子会社("Tochtergesellschaft")は5,253人を雇用しており、ドイツのクラブに直接従事している人数は21,702人でした。

その内訳は7,217人がフルタイム、残りは研修生やパートタイム、臨時雇いです。

 

クラブの雇用が比較的安定していた一方で、委託されたサービス業者("Indirekt Beschäftigte")においては明らかな変化が見られ、前年の34,598人から31,084人に減少しました。

特にケータリングやセキュリティ関連では顕著でしたが、第26節以降の無観客試合による影響と理解できます。

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https://media.dfl.de/sites/2/2021/03/D_DFL_Wirtschaftsreport_2021_M.pdf

以上で紹介したデータは、社会におけるドイツサッカーのインパクトの大きさを表しています。レポートによると、現時点でこの分野では大きなマイナスを受けていないと報告されていますが、これは今後の国内外動向に強く依存し、場合によっては更なるコスト削減の必要性が出てくるのではないかと思います。

 

まとめ

前編の内容も含めて、最後にまとめたいと思います。

コロナパンデミック前に行われたブンデスリーガ各クラブの損益予測が正確で、例外を除いてわずかな乖離しかなかった点は19/20シーズンのポジティブな要素と言えるでしょう。

項目別に見て減少額が目立ったのはチケット収入でした。これは大方の予想通りです。

翻って19/20シーズン終了時点に、それ以外の項目でコロナによる収益の大幅な落ち込みは記録されませんでした。

 

また、相対的にメディア収益が占める割合が更に高くなったこともこのシーズンの特徴と言えます。国際大会の放映権料減額や支払い遅延の報道が出ていたので、筆者はこの項目にも影響があると予想していました。

そして何よりこの未曾有の事態でも、営業収益のおよそ40%を支える、比較的安定した収入源を確保していたことは大きいと再認識しました。

ここから学べることとして、現代のある程度サッカー文化が成熟した国では、マーケットをいかに国外へ広げられるかがポイントではないでしょうか。これは放映権に付随して他の収益が生まれるため大きなポテンシャルを秘めていると思います。

例えば、ある国における他国リーグの認知度を調査すると、競技レベルだけでなく、自国選手所属の有無やノウハウ共有などの協業関係、オンラインアクティベーション、さらには文化的背景など様々な要素が絡み合うことを考慮すれば、スポーツマネジメントの領域でできることは多く存在しそうです。

その点、タイやベトナムを筆頭にアジアでのプレゼンス向上に取り組んでいるJリーグは今後国外からの放映権収入増加が期待できるのではないかと考えています。

 

話をブンデスリーガ決算に戻すと、当然ながら最終黒字でシーズンを終えたクラブ数は減少しました。この原因の一つとして、収益の落ち込む中で構造的にコスト削減が難しかったことが挙げられます。

ただし見方を変えると、ブンデスリーガクラブはコストカットは最小限にとどめ、前述の育成年代への投資や人件費など必要なコストは継続しながら19/20シーズンを戦ったと言えます。

一方でJリーグは(決算時期が異なりますが)最終黒字を計上しました。投資活動の凍結など大幅なコスト削減を実施して黒字転換し、翌シーズン以降の予算に充てると記事では述べられています。

見えるのはあくまでも表面上ですが、両リーグ、クラブの方針や体質の違いは興味深いです。

news.yahoo.co.jp

 

さて、問題はこれからです。残念なことに翌シーズン20/21決算において、コロナ関連の影響が強くなることはほぼ間違いないでしょう。現時点で昨シーズンより多くの無観客試合を消化し終えていることから、最も打撃を受けたチケット収入は更に落ち込むことが予想されます。

加えて、各リーグの財務状況が思わしくない場合には国際的な移籍市場にもその影響が及ぶこと、そして新たな収入源の確保や更なるコスト削減が急務となってくる可能性も十分に考えられます。

ワクチン普及を皮切りに社会回復が順調に進み、有観客試合の実施、ひいては以前のようなサッカーライフが戻ってくることを願うばかりです。

 

それではまた!