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【50+1ルール2/3】今こそブンデスリーガの制度を見直すべきなのか

こんにちは、Shootです。

 

前回50+1ルールとその例外についてレバークーゼンの事例とともに簡潔に説明しました。

ブンデスリーガ特有のこのルールを理解した前提で話を進めて行きますので、まだ読んでない方はぜひご覧ください。

shootde.hatenablog.com

 

さて、今回はその50+1ルールにまつわる議論と長年廃止を主張してきたハノーファー会長Martin Kind(マーティン・キント)を取り上げます。

 

賛否両輪 

50+1ルールを簡潔に説明すると、過半数以上の議決権を親クラブが持つ必要があり、外部投資家の独断でクラブ運営をすることを防ぐためのドイツ独自のルールです。これはDFB(ドイツサッカー連盟)によって定められており、例外を認めるのもまた同機関です。

このルールを含む厳しいライセンス制度が「ブンデスリーガクラブは健全経営である」と言われる所以でしょう。これはドイツサッカーファンの誇りです。

 

ルール制定の名目は、ファンとクラブのアイデンティティの保持し、競技の不可侵性を守ること。その一方で、詳細は述べませんがヨーロッパの競争法、資金流通の自由権に関して批判的な見方やカルテル法的な懸念もあるようです。

長年に渡って議論されてきたテーマですが、ここからは「50+1ルールの廃止」に賛成派、反対派の代表的な意見を紹介します。

 

ルール廃止に賛成
 
・ドイツでのみ適応されるルールであるが故に、ドイツクラブは金銭的に恵まれた他のヨーロッパクラブに対して不利であり、今後も存続すればドイツサッカーが国際的に意味を成さない恐れがある
・廃止することで国際的トップクラブとの財政的な溝を埋め、ドイツクラブの成功を援助するための資金を獲得できる
・批判者は、国際的クラブがすでにほとんど商業的で、継続的な高パフォーマンスを発揮するために投資家を頼りにしていることを顧みない
  
ルール廃止に反対
・投資家による決議権の継承と彼らの経済的成功への関心を通して、クラブ運営はただ売上拡大にのみ注力する
・ドイツサッカーカルチャーへの不安があり、特にファン、メンバーと彼らのクラブの強い結びつきが危険に晒される。民主主義的な管理は弱まり、彼らは切り離されたクラブ運営への議決権を持たない
・レアル、バルサ、バイエルンは50+1ルール内で成功を納めている。スポーツ的な成功とは関係なく、それよりも裕福なクラブと財政難クラブの格差が広がる
・イングランドで起こっているように、多くのファンが払えないようなチケット価格の高騰が起きる。そこではますます多くの経済力のある観光客が試合に訪れる
 

 

これらを踏まえて、個人的に付け加えたいことは以下の2点です。

①論点は国際大会か

以上で紹介した意見以外にも目を通してきましたが、多くのファンはこの伝統的なドイツ特有の制度に納得しているようです。

議論の際、悪い例として必ず挙げられるのがイングランドプレミアリーグのチケット価格高騰。その点ブンデスリーガは最安値10€代から購入可能で、この良心的な価格設定はドイツの地元ファンにとって大きな意味を持ちます。(参照:RBライプツィヒのチケット料金表)

 

それでもこの議論が繰り広げられる背景には、ここ数年ブンデス勢が国際大会で満足のいく成績を収めていないことがあります。(2020年4月時点)

資金力のある他リーグクラブに競り勝ち、ヨーロッパで成功する姿を見たいファンの気持ちを理解すれば、主張する理由もわかります。

 

②ブンデスクラブの経営は順調

外部投資家からの資金なしに売上が年々伸びており、制度として全く問題がないことを知っておくべきでしょう。

DFLの決算報告書によると、2018/19シーズンはブンデス1部の18クラブ全体の売上高が史上最高額40億€に達しました。

自己資本比率も順調な推移を見せています。よって、今すぐに50+1ルールを廃止し、大きな改革を起こす必要があるのかと言われれば疑問です。

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DFL Wirtschaftsreport 2020

 

廃止運動の主役

さて、この50+1ルール廃止に関する議論を扱う上で取り上げなくてはいけない人物がハノーファー96会長兼ハノーファー96を運営する会社の経営者でもあるマーティン・キント氏でしょう。

彼は10年以上前からこのルール反対を掲げています。

 

まずは2009年11月10日にリーグ連盟の総会で50+1ルールの廃止を申請しました。

その根拠としては、このルールはクラブと潜在投資家にとって競争侵害を意味するというもの。

結果的に36クラブや連盟によって却下されるも、このアクションはルールの妥当性について考えさせるきっかけを与えます。

その後、2013年にはレバークーゼン法として知られる例外法の内容が変更されました。

もともと存在していた「1999年1月1日以前からの20年以上に渡るクラブ援助」という条件から日付が排除されます。

つまり、1999年以降に関与したクラブでも今後20年間の援助を続けることで例外が認められうるということが正式に決まりました。

 

そして、キント氏がハノーファーを援助して20年が経過する2018年を前にして彼の動向が再び注目を集めます。メディアが一連の騒動を取り上げ、最大のスポーツ紙Kickerはキント氏と専門家によるトークセッションを企画しています。

www.kicker.de

キント氏の主張は「ブンデスリーガでの競争平等」と「ブンデス勢の国際大会の競争力」でした。

結果的に条件を満たさないとし、ハノーファーの例外は認められず、2019年にクラブは申請の取り下げを発表。

 

キント氏に対して個人的な利害関係に基づいた悪いイメージが先行していることは事実ですが、今後の議論の展開は注目に値すると言えるでしょう。

 

まとめ

ここまで50+1ルール廃止に対する賛否両論やハノーファーのマーティン・キント会長の事例を紹介しましたが、このタイミングで取り上げたのには訳があります。

それは、現在のコロナショックによる経済的な打撃を受けて、再び議論が活発になっているからです。

CHECK24 Doppelpass: Kippt Corona jetzt die 50+1-Regel? Heiße Diskussion im DOPA

 

個人的には外部投資家の資金によってクラブが活性化し、それがリーグの刺激になると考えているので、前提として肯定的な意見を持っています。

しかし、ドイツブンデスリーガの伝統や固有のアイデンティティは非常に価値のあるものだと認識していて、今後も失わないでほしいという気持ちが強いです。

 

ブンデスリーガ、さらにはサッカー業界に限らず、今が歴史的な転換期であることは間違いないしょう。

 

危機を乗り越えるためには今まで以上に変化を受け入れ、柔軟な対応が必要。ルールの一部変更や条件の追加は現実的なオプションになるかもしれません。

 

シリーズ最終回は、ブンデス8部からいまや1部常連になったTSGホッフェンハイムを取り上げます。

それではまた次の記事で!

shootde.hatenablog.com