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【ブンデスリーガ決算書②】チケット収入大幅減も19/20業績悪化は最小限

こんにちは、Shootです。

 

前回、19/20欧州サッカーへのコロナ影響は?と題して、ブンデスリーガの決算レポートから売上高とその内訳を紹介しました。

今回はその後編として、重要指標や最終損益などのパフォーマンスを1部・2部に分けて見ていきたいと思います。

まだ前編をご覧になってない方はお先にこちらをどうぞ↓

shootde.hatenablog.com

 

ブンデスリーガ1部業績

早速ですが、B/Sに関して3点言及します。

クラブ資産の合計額は約4%増加し、39.5億(3,950m)ユーロと過去最高を記録。

中でも選手の資産価値増大が目立ちました。(表2行目"Spielervermögen")

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https://media.dfl.de/sites/2/2021/03/D_DFL_Wirtschaftsreport_2021_M.pdf

負債額は前年レポートの約14.6億ユーロ(1,459m)から18.1億ユーロ(1,810m)と大幅に増加。(表4行目"Verbindlichkeiten")

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https://media.dfl.de/sites/2/2021/03/D_DFL_Wirtschaftsreport_2021_M.pdf

それに伴い企業の安定性を測る重要な指標である自己資本比率は43.7%と僅かに低下(前期47.7%)。それでも比較的高い水準を維持していることは注目に値すると言えます。

 

次にP/Lの費用に目を向けると、収益の減少とは対照的にクラブ費用が前年比1.7%増加しています。

これはクラブ側の努力にも関わらず、確立されたコスト構造の短期的削減が困難であることを意味しています。

つまりそれは既存の契約関係によるものが大きく、具体的にはコーチと選手の給与(表1行目"Personal Spielbetrieb")が全体の36.56%と最大の項目です。この項目の費用額は前年比1%増でした。

 

また、ユース費用(表5行目"Jugend/Amatuere/Leistungszentrum")が増加していることが以下の表からわかります。割合にすると前年比6.9%増です。

これは育成年代への必要な投資を止めていないことを意味し、ブンデスリーガの方針が窺えるポイントだと思います。

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https://media.dfl.de/sites/2/2021/03/D_DFL_Wirtschaftsreport_2021_M.pdf

 

最終損益は収益3,802mに対し、費用3,957.6mでマイナス155.6mユーロとなりました。

近年利益を出し続けてきたブンデスリーガは9年ぶりに最終赤字を計上。同シーズン当期純利益を計上したクラブは8/18でした。

EBITDA(税引前利益に支払利息、減価償却費を加えた利益)ベースでは16クラブが最終黒字を達成とのこと。

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https://media.dfl.de/sites/2/2021/03/D_DFL_Wirtschaftsreport_2021_M.pdf

 

ブンデスリーガ2部業績

短期的なコスト削減における課題はブンデスリーガ2部にも当てはまります。

B/Sの合計額が652.1mと前年から18.2m伸ばしてレコード更新。これは割合にして2.9%増に相当します。

クラブ資産の増加に関して、昇降格クラブの財政基盤が少なからず影響していることは忘れてはいけません。

以下の表はブンデスリーガ2部のB/S資産の部。最終行赤字の"Summe"は合計額を表しており、前年から増加していることがわかります。

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https://media.dfl.de/sites/2/2021/03/D_DFL_Wirtschaftsreport_2021_M.pdf


 

2部リーグ全体の最終損益は57.8mのマイナスでシーズンを終了。7/18クラブが最終黒字を計上しました。 

また、前出のEBITDAベースでは15クラブが利益計上。

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https://media.dfl.de/sites/2/2021/03/D_DFL_Wirtschaftsreport_2021_M.pdf

 

税金と雇用

最後に税金と雇用に関するレポートも記載されていたので簡潔に紹介します。

1部・2部に所属する36クラブは合計14億ユーロ(1,400m)を税金及び社会保険料として納めました。これは前年比15.5mユーロ増で過去最高額です。

 

雇用に関しては合計52,786人が直接的、または間接的にドイツのプロサッカーに従事しているとのこと。

クラブスタッフ("Lizenznehmer")は前年よりも793人増加し、19/20シーズンは16,449人の従業員が働いていました。

加えて、クラブ子会社("Tochtergesellschaft")は5,253人を雇用しており、ドイツのクラブに直接従事している人数は21,702人でした。

その内訳は7,217人がフルタイム、残りは研修生やパートタイム、臨時雇いです。

 

クラブの雇用が比較的安定していた一方で、委託されたサービス業者("Indirekt Beschäftigte")においては明らかな変化が見られ、前年の34,598人から31,084人に減少しました。

特にケータリングやセキュリティ関連では顕著でしたが、第26節以降の無観客試合による影響と理解できます。

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https://media.dfl.de/sites/2/2021/03/D_DFL_Wirtschaftsreport_2021_M.pdf

以上で紹介したデータは、社会におけるドイツサッカーのインパクトの大きさを表しています。レポートによると、現時点でこの分野では大きなマイナスを受けていないと報告されていますが、これは今後の国内外動向に強く依存し、場合によっては更なるコスト削減の必要性が出てくるのではないかと思います。

 

まとめ

前編の内容も含めて、最後にまとめたいと思います。

コロナパンデミック前に行われたブンデスリーガ各クラブの損益予測が正確で、例外を除いてわずかな乖離しかなかった点は19/20シーズンのポジティブな要素と言えるでしょう。

項目別に見て減少額が目立ったのはチケット収入でした。これは大方の予想通りです。

翻って19/20シーズン終了時点に、それ以外の項目でコロナによる収益の大幅な落ち込みは記録されませんでした。

 

また、相対的にメディア収益が占める割合が更に高くなったこともこのシーズンの特徴と言えます。国際大会の放映権料減額や支払い遅延の報道が出ていたので、筆者はこの項目にも影響があると予想していました。

そして何よりこの未曾有の事態でも、営業収益のおよそ40%を支える、比較的安定した収入源を確保していたことは大きいと再認識しました。

ここから学べることとして、現代のある程度サッカー文化が成熟した国では、マーケットをいかに国外へ広げられるかがポイントではないでしょうか。これは放映権に付随して他の収益が生まれるため大きなポテンシャルを秘めていると思います。

例えば、ある国における他国リーグの認知度を調査すると、競技レベルだけでなく、自国選手所属の有無やノウハウ共有などの協業関係、オンラインアクティベーション、さらには文化的背景など様々な要素が絡み合うことを考慮すれば、スポーツマネジメントの領域でできることは多く存在しそうです。

その点、タイやベトナムを筆頭にアジアでのプレゼンス向上に取り組んでいるJリーグは今後国外からの放映権収入増加が期待できるのではないかと考えています。

 

話をブンデスリーガ決算に戻すと、当然ながら最終黒字でシーズンを終えたクラブ数は減少しました。この原因の一つとして、収益の落ち込む中で構造的にコスト削減が難しかったことが挙げられます。

ただし見方を変えると、ブンデスリーガクラブはコストカットは最小限にとどめ、前述の育成年代への投資や人件費など必要なコストは継続しながら19/20シーズンを戦ったと言えます。

一方でJリーグは(決算時期が異なりますが)最終黒字を計上しました。投資活動の凍結など大幅なコスト削減を実施して黒字転換し、翌シーズン以降の予算に充てると記事では述べられています。

見えるのはあくまでも表面上ですが、両リーグ、クラブの方針や体質の違いは興味深いです。

news.yahoo.co.jp

 

さて、問題はこれからです。残念なことに翌シーズン20/21決算において、コロナ関連の影響が強くなることはほぼ間違いないでしょう。現時点で昨シーズンより多くの無観客試合を消化し終えていることから、最も打撃を受けたチケット収入は更に落ち込むことが予想されます。

加えて、各リーグの財務状況が思わしくない場合には国際的な移籍市場にもその影響が及ぶこと、そして新たな収入源の確保や更なるコスト削減が急務となってくる可能性も十分に考えられます。

ワクチン普及を皮切りに社会回復が順調に進み、有観客試合の実施、ひいては以前のようなサッカーライフが戻ってくることを願うばかりです。

 

それではまた!

【ブンデスリーガ決算書①】19/20欧州サッカーへのコロナ影響は?

こんにちは、Shootです。

 

今回は「欧州サッカーへのコロナ影響」ということで、その一例としてドイツブンデスリーガの決算レポートを読み解いていこうと思います。

遡ること3月8日、DFL(ドイツサッカーリーグ機構)により最新版の2019/20ブンデスリーガ決算レポートが発表されました。

www.dfl.de

 

欧州サッカーではシーズンが年を跨ぎ、5,6月まで続くため、今回の19/20版がコロナの影響を受けた初めてのレポートになります。

欧州各国で様々な対応を取りましたが、ドイツブンデスリーガは第26節から無観客試合に切り替え、大幅な日程変更を実施してシーズンを締めくくりました。

ちなみに観客来場無しで試合を行ったのはリーグ史上初めてのことです。

 

経済的側面に目を向けると、これまで15シーズン連続でリーグ全体の売上高更新、自己資本比率も右肩上がりと好調を維持していました。

前編では主に売上高と収益源に注目し、後編では上記指標を中心にパンデミックによる業績の変化をレポートから見ていこうと思います。

 

基本的に金額表記時はm(Million€)を用いますが、桁が大きい場合は〇〇億ユーロのように単位を変更します。

 

ブンデスリーガの構造

まず初めにリーグの構造について少し触れておきます。

前述のドイツサッカーリーグ機構、通称DFLはブンデスリーガ1部と2部を管轄している組織です。

さらに厳密に言うと100%子会社であるDFL GmbHという有限会社(ドイツでは一般的)が実質的な運営を担っています。その役割はブンデスリーガ、スーパーカップ、入れ替え戦のメディア権利による収益を国内外で最大化することです。

そして、契約パートナーとしてそこで挙げた収益を権利所有者、すなわち各クラブに還元する仕組みとなっています。

この過程でDFLは組織として手数料を受け取り、GmbHの運営費用を賄います。

DFLとDFB(ドイツサッカー連盟)の関係性に関しては過去記事で説明しているので、こちらも興味のある方はリンクをご参照ください。

shootde.hatenablog.com

 

ブンデスリーガ1部・2部の売上高

さて、リーグの発展という文脈で最も注目される総売上高を見ていきます。

結論としては19/20シーズン1部と2部合計して45億ユーロ(4,500m€)でした。これは前年比5.7%減。この減額を大きいと捉えるか小さいと捉えるかは人それぞれでしょう。

 

冒頭で述べた15期連続の最高売上高更新はこのシーズンで途絶えてしまいました。

以下は前回レポートまでの売上高の推移を表しています。

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https://media.dfl.de/sites/2/2020/02/DE_DFL_Wirtschaftsreport_2020_S.pdf

このグラフから分かることは、45億ユーロという数字が2017/18シーズンの値を上回っており歴代2番目の記録であることです。

この1年間で社会が一変したことを考慮すれば、この結果は決して悪くないと言えるかもしれません。

次にこの売上高の内訳を見ていきます。

 

ブンデスリーガ1部収益内訳

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公開データを基に筆者作成

1部クラブ全体の売上高は約38億ユーロ(3,800m)でした。

項目を個別に見た時に今回のコロナショックの影響を最も受けたのはグラフ青色のチケット収入です。無観客試合が直接的に響いた結果として、特別驚きはありません。

しかしながら、この363.5mユーロという数字は前年比155mユーロ減とかなり打撃が大きく、割合にして30%減に相当します。

 

次に減少が見られた項目はトランスファー収入で前年比約12%減。

とはいえ、この項目は移籍市場の流動性や大型移籍の成立有無に依存するので、もともと変動性の高いことが特徴です。よってコロナによる直接的な影響が大きいか判断は難しいでしょう。

 

メディア収入(放映権収入)は前年とほぼ同等レベル。従って、相対的に割合が高くなり、19/20シーズンは営業収益の39.2%を占めています。円グラフ面積の大きさは一目瞭然です。

 

この決算レポートによると、パンデミック前にライセンシングの一環として各クラブから提出された19/20シーズン予測と実際の数値との間にわずか数%しか乖離がないと報告されています。

つまり、それぞれのブンデスクラブがパンデミック以前に行った収益予測は非常に現実的な数字であったことを意味します。(チケット項目は例外)

これはこのシーズンでポジティブな要素だと言えるでしょう。

 

ブンデスリーガ2部収益内訳

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公開データを基に筆者作成

ブンデスリーガ2部でも782mから726mユーロと売上高の減少が見られました。それでもこの数字は歴代2番目の記録です。

留意点として特に2部では昇降格クラブの経済基盤がリーグ全体に少なからず影響をもたらすという特徴があるため、常に一定の変動性があることも事実です。

要するに、この変動額だけでコロナの影響度合いを測ることは難しいでしょう。

 

1部と同様にパンデミック前の予測値は現実的でわずか数%のズレのみと報告されています。例外はコロナの影響を大きく受けたチケット収入と常に変動性を持つトランスファー収入の2項目。

そして、このカテゴリーで特徴的だったのがメディア収入の増加です。この状況にもかかわらず、6.4%の成長を達成。従って、前年よりもメディアの占める割合が高くなっています。

 

まとめ

前編で見てきた売上高とその内訳について簡単にまとめます。

売上高に関しては1部・2部どちらのリーグでも減少が記録されました。しかしながら、大幅な減少は見られず、共に前シーズンに次いで歴代2番目の結果となりました。

続いて内訳を見ると、チケット収入がパンデミックの影響を最も受けたことがわかります。これは第26節以降、無観客試合に切り替えたことを考えれば自然なことで大方の予想通りだったのではないでしょうか。

また、それに伴い、もともと最大の収益源として支えてきたメディア収入がより大きな割合を占めました。

 

というわけで、後編ではその他の業績について取り上げます。

P/Lに目を向けるとブンデスリーガ全体で9年ぶりに最終赤字を計上しました。パンデミックの影響をどの程度受け、また前年と比較してパフォーマンスに変動があったのか見ていきます。近日公開予定なので、こちらもよろしくお願いします。

shootde.hatenablog.com

それではまた! 

サッカー選手も出資する仏スタートアップ Sorare とは

こんにちは、Shootです。

今回はブロックチェーン技術を用いたファンタジー・フットボール・プラットフォームを運営する Sorare を取り上げます。

sorare.com

 

ファンタジー・フットボール・プラットフォームとは

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https://sorare.com/press

冒頭でファンタジー・フットボール・プラットフォームと紹介しましたが、Sorareが提供するのはSO5と呼ばれるサッカーゲーム。

公式の実名選手デジタルカードを取引し、各ポジション一人ずつ配置してチームを構成、トーナメントに参加してスコアを競い合います。

 

特徴はブロックチェーン技術(Ethereum)を用いて取引が行われることに加え、週末に行われる現実世界の試合結果に応じてスコアが変動することでしょう。

この現実世界と並行する「リアルタイム性」という要素によって、そこに没入感が生まれるわけです。

 

資金調達

SorareはCEOニコラ・ジュリア氏とCTOアドリアン・モンフォール氏によって2018年に設立されたパリに拠点を置くスタートアップです。

ブロックチェーン技術をスポーツビジネスの分野に応用したことでベンチャーキャピタルや個人投資家から注目を集めました。

 

直近のシリーズAでは、これまでにUberやTwitter, eBayに投資した米ベンチマークキャピタルを筆頭にフランス代表FWアントワーヌ・グリーズマンやドイツ代表マネージャーでDFB(ドイツサッカー協会)幹部のオリバー・ビアホフ氏が出資。

Sorareは同ラウンドで合計約5000万ドルを集めています。

 

他にも公式サイトには有名なサッカー選手や名門VCが名を連ねます。

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https://sorare.com/

 

PMFも達成か

HandelsblattによるとSorareのコンセプトは市場に受け入れられているとのこと。すでに約8万人のユーザーを抱え、月間75万ユーロの売上を計上しています。

ライセンス取得済みのクラブ数は現時点で126に及びますが、このブロックチェーンゲーム企業の更なる飛躍にはより多くのビッグクラブの承認が必要となるでしょう。

 

また、前述のビアホフ氏はインタビューの中でスポーツ界のデジタル化の好例であるとし、特に現在のような状況下でファンとサッカーをアクティブに繋ぐ素晴らしい可能性だと述べています。

www.businessinsider.de

 

Jリーグも参加

昨年8月、JリーグとSorareはJリーグクラブに所属する選手のデジタルカードを発行し、プラットフォーム上で使用することに合意しました。

それに際してCEOニコラ・ジュリア氏は以下のように述べています。

「サッカーは日本で2番目に大きなスポーツであり、日本サッカー協会の熱心な戦略のおかげで急速に成長しています。私たちは、私たちのゲームを通じて、Jリーグと日本サッカーがヨーロッパやアメリカ大陸でさらに輝くためのお手伝いができることを誇りに思います。今回の合意は、トップ20のリーグが参加するグローバルなファンタジーサッカーゲームを実現するというビジョンに向けた重要な一歩となります。」

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000062783.html

 

 ちなみにJリーグはKリーグに次ぐアジア2番目のリーグとのこと。

ライセンスビジネスとしてどのような契約かはわかりませんが、Jリーグの新たな収益源という観点からもSorareの更なる発展に期待したいです。

 

まとめ

資金調達からサッカー界の熱視線はもちろんのこと、投資家による注目の高さが窺えます。

その要因の一つはブロックチェーン技術を用いたゲームにスポーツ、サッカー領域を掛け合わせたこと。

さらにこの段階で順調に登録ユーザー数を伸ばし、すでに収益化を達成できている点は注目に値するのではないでしょうか。

 

最後に筆者個人的に思ったことが二つあります。

一つ目は、市場ポテンシャルの大きさが計り知れないということ。アジアではKリーグ、Jリーグのライセンスを取得したことからもわかるように、全世界のサッカーファンを対象としています。

 

二つ目はリアルサッカーとの相性が良い秀逸なモデルであること。ゲームのユーザーは実際の試合への関心を高めることになるので、時間の奪い合いではなく相乗効果を見込むことができます。

以上の点を踏まえ、今後の展開にも注視していきたいと思います。

 

それではまた!

 

shootde.hatenablog.com

 

ドイツサッカーの土台!総合型地域スポーツクラブ''Verein''とは

こんにちは、Shootです。

先日オンラインイベントでお話しさせていただいた内容を振り返り、Vereinの全体像や税制、仕組み、現時点での自分の考えをまとめてみようと思います。

 

Vereinの全体像

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ドイツには地域のコミュニティクラブであるVerein(フェライン)という文化があります。Vereinは英語でいうassociationで共通の目的を持った集団を指します。全国で約60万クラブが存在し、その種類はスポーツに限らず、文化や教育、芸術など多岐にわたります。また、日本語のクラブは広義ですが、ドイツ語ではプロスポーツクラブと明確に区別されて用いられることが一つのポイント。組織の形態としてはNPOや公益社団法人というイメージです。
その中で地域スポーツクラブは約9万、Vereinに所属している会員数は全体で2400万人と言われ、ドイツの総人口がおおよそ8300万人なので国民の約29%が何らかの地域クラブに所属し、スポーツに励んでいる計算になります。
 

ドイツ国内で一番大きな割合を占めるスポーツはやはりサッカーで2万4千クラブ超が存在します。DFB(ドイツサッカー連盟)によると700万人以上が選手登録し、プレーしているそうです。そのVereinが各地域ごとにカテゴライズされて、下は設立したばかりのクラブ、トップがブンデスリーガクラブという構造。ピラミッドの規模感を掴んでいただくために日本と比較すると1部2部が18チーム、3部20チームとここまではJリーグと大差ありません。しかし、4部では地域ごとに5リーグ約100チーム(日本:JFLは16チーム) 5部は14リーグ約300チーム(日本:地域トップ9リーグ80チーム)と一気にボリュームが広がっているのが特徴です。

 

ドイツ・ブンデスリーガは地域密着を確立し、日本のJリーグが地域に根付いたクラブを目指す際のモデルとなったと言われています。世界トップレベルの観客動員数を誇ることでも有名です。シーズン通して平均4万人超、動員率も90%を超えます。
この地域密着に成功している要因の一つが前述したVerein文化、つまり総合型地域スポーツクラブが土台となったリーグの構造であるというのがこの章の主張です。
 
ちなみに現在ブンデスリーガクラブの多くが母体であるVereinとは別に資本会社がトップチームを運営しています。これは1990年代にサッカークラブのプロフェッショナル化が進み、NPOであるVereinと切り離し専門の部署を設けて、さらに資金調達の可能性を広げるために株式会社や有限会社、合資会社の形態を採用したという背景があります。よって厳密に言えば、純粋なVereinとして運営しているのは数クラブのみ。それでも地域クラブであるVereinから派生したという経緯は変わりません。

www.kicker.de

(クラブ名のe.V.という表記はeingetragener Vereinの略で登録されたフェラインという意味)

このように、総合型地域スポーツクラブからプロフェッショナル化していったブンデスクラブと企業から派生し、地域密着クラブを目指した日本のJリーグクラブ。両者を比較する際に、優劣云々以前にその成り立ちと経緯が異なることは注目に値するでしょう。
 

スポーツ文化を発展させた戦後の施策

それでは、なぜVereinを通して現在のスポーツ文化が定着していったのか。もっと言えば、国民の生活の一部となったのか。歴史的に見ると3つの施策が重要な役割を担ったと考えています。
第二の道

第一の道をトップアスリートの育成とし、それに対して幅広い世代への運動促進を目的として1959年に始まった施策。スポーツ連盟主導で行政と協力、設備を整えたゴールデンプランと合わせてソフトとハードの両輪で押し進めました。

ゴールデンプラン
ドイツオリンピック協会が連邦政府、州、自治体に呼びかけ、1960年に開始されました。国民に対して必要な運動施設を割り出し、最初の15年間で約174億DM、日本円で1兆2千億円超えのインフラ投資をしています。
トリム運動
引き続いて1970年にTrimm dich Bewegungと呼ばれるキャンペーンが始まります。言葉の由来はスポーツによって身体をフィットにするというドイツ語trimmenから。現在のフィットネスブームのの発端とも言われています。
この施策は行政に加えて、一般企業が連携し国民一人一人にスポーツを呼びかけたことで有名です。また、特徴としてPRを広告代理店に委託し、マスメディアをフル活用したことやキャンペーン開始時すでに120社のスポンサー企業がついていたことが挙げられます。
 
このような取り組みの結果、スポーツが国民にとって精神的にも物理的にもより身近な存在となり、その需要に対する受け皿の役割を担っていたVereinもまたその基盤を安定させていったという認識です。
 

お金の話

Vereinの立ち位置や歴史的な背景は以上で述べてきた通り。それでは実際にドイツではどう機能しているのかという論点に移ります。
最初に結論を書くと、税的優遇措置や助成金など国が整備した制度、仕組みから恩恵を受けている部分は少なからずあると考えています。
つまり、それらがVerein運営に良い影響を与え、間接的に利益を生み出し、税金として還元されるといった経済的な循環がある程度成り立っているということ。
 
もちろん個別に見ると大きな差があり、経済的に厳しいVereinが存在することも事実。
しかしながら、全体で見れば運営は安定傾向。Bundesinstitut für Sportwissenschaft(連邦内務省に属するスポーツ研究所)の報告によると2016年Vereinの72.5%が黒字を計上しています。 
 
Vereinに関する制度の具体例を3つ挙げてみます。
①年間の売上が日本円にして約440万円に満たない場合、営利目的事業からの収入に対しても非課税
Vereinの収入は以下の4つの領域にカテゴライズされます。

Ideeler Bereich(非営利領域)

会費、寄付金、助成金など

Vermögensverwaltung(資産管理)

土地や建物の賃貸、受取利息など

Zweckbetrieb(特別目的事業)

スポーツ教室などのイベント(営利目的だが、公益性の高い事業)

Wirtschaftlicher Geschäftsbetrieb(経済目的事業)

スポンサー収入、飲食ケータリング、物販など

端的に説明すると、最初の3つは法人税であるKörperschaftssteuer, (Solidallitätszuschlag), Gewerbesteuerが免除。最後の経済目的事業からの利益に控除分を差し引いた額に対して本来は約30%が税金として徴収されるが、前述のように売上が440万円以下であれば非課税となります。

結果として、少額でも経済目的事業からVerein自ら売上を作ることを促します。

 
②年間約37万円までVerein指導者の所得税と社会保険料が免除
ドイツでも多くのクラブではトレーナーやコーチがボランティアとして活動しています。このÜbungsleiterpauschaleという制度は少額ではあるが彼らに非課税の給与を与えることで、少しでもメリットを享受してもらおうというもの。パートタイムで副業として従事してくれる人を増やし、Vereinコストで最大の割合を占める人件費を賄うことを目的としています。
※年間3000€(2021年現在)
 

補足ですが、以上で紹介したものは税的優遇措置の一例です。他にも日本の認定NPO法人が受けられる寄付金への課税控除などもVereinが享受できる優遇に含まれます。

 

③公的助成金などオファーの選択肢が多い
2016年のデータでは市町村、自治体からのスポーツ助成金を受け取っているVereinが全体の約半数。他にも49%が各地域スポーツ連盟から助成金を受け取っており、続いて州からのスポーツ助成金19%、加えて援助団体や援助プログラムからの助成金を収入源としています。
 
また、今回のコロナ対策関連助成金の例を挙げるとVereinは連邦政府と各州から援助を受けることができます。連邦経済エネルギー省のオファーは数ヶ月ごとに条件を変更していますが、基本的には前年同月の売上と比較して何割なら固定費の何割補助といった感じ。一方、州の助成金は例えば人口最大のノルトラインヴェストファーレン州では、ランニングコストを賄えないVereinに対して一律15.000€(約188万円)給付を実施。
 
ちなみにサッカーに目を移すと資金的な援助ではないものの、DFBは毎年アマチュアサッカーに150億円投資していると言われています。
 
この章の最後に付け加えたいことがあります。それは行政の予算が大きいとか、制度が特別優秀だから模倣すれば良いというような単純な結論ではないということです。前半で紹介した歴史的、または文化的な背景などいくつかの前提条件があって初めて成り立つものだと考えています。
そこで一点忘れてはいけないのがEhrenamtと呼ばれる社会奉仕活動です。全国で270万人がこの領域で従事しています。元々このボランティア精神がVereinを支えてきました。時代とともに発展し、総合型地域スポーツクラブ運営のお手本と呼ばれるドイツですが、その土台があるからこそ成り立っているということは今回のイベントから得た学びでした。
 

まとめ

これまでドイツの総合型地域スポーツクラブについてマクロな視点で述べてきました。
 
先日のイベントで新たに気づいたことはボランティア人材の重要性でした。
以前は「どうやって収益を生み出しているのか」という部分によりフォーカスしてこのテーマを考えてきたので、コストの視点に欠けていたことを自覚しました。
 
先週たまたましたドイツ人の友人との会話から思ったことがあったので紹介します。
日独間の働き方の違いは有名ですが、彼らの主張は端的に言うと以下の通りでした。
「そもそも残業が仕方ないことという概念がない。残業代が出るからといって職場に残る人は少数派だろう。同じくらいの生産高を維持してできるだけ労働時間を減らすことを目指したい。」
これはあくまでも友人たちの一意見に過ぎませんが、これまでの経験から根底にある考え方は皆近いように思います。以前RBライプツィヒのサービスチームで働いていた時も終了時間と同時にパソコンの電源を切るのが当たり前。外部と幹部の繋ぎ役をやっていた際も「金曜日だから早めに帰宅したよ」と言われ、16時過ぎには電話が繋がらないということがしばしばありました。
 
したがって、時間外労働を好まないドイツ人にとってVereinでのボランティア活動はプライベートで、労働と完全に切り離しているのだろう。だからこそ、趣味として、そんな主体的な姿勢によってドイツのVerein文化が支えられているのではないかというのが僕の勝手な推測です。
 
 
最後に日本の総合型地域スポーツクラブについて。ドイツに住んでいることもあり、このテーマに関して意見を求められることが時々あります。今回のイベントのために再び考える時間を確保し、実際に参加者の方のお話を聞いた今でも何か決定的なアイデアがあるわけではありません。
それでも唯一言えることがあるとすれば、学校との、そして部活動との強い連携が鍵ではないかということです。日本の総合型地域スポーツクラブの未来を考えるためドイツVereinを引き合いに出す際に「Vereinが日本でいう部活動の役割を担っている」という事実を忘れてはいけません。草の根スポーツ促進の受け皿として機能したのも、絶対数が多く、また国がお金を掛けられるのも、一定数地域住民のコミットメントが期待できるのもこの前提条件があるからです。
よって、部活動と総合型地域スポーツクラブの役割をより明確にして既定路線の相互補完型モデルのブラッシュアップを目指すか、もしくはドイツのように総合型地域スポーツクラブの発展に舵を切るのであれば、地域によっては部活動から完全に地域クラブへ移行するなど、ドラスティックな改革が必要になるのではないかと思っています。
 
後半は主観が多くなってしまいましたが、全体像としては以上の通りです。個人的にも興味深いテーマなので、これをきっかけに長期的に深めていければと思います。
 
それではまた!
 

2020年に最も読まれたスポーツビジネス記事

こんにちは、Shootです。

もう年末ですね。今年はコロナの影響が大きく、ロックダウン期間も長かったので気が付けば一年が終わってしまうという感覚です。

さて、今回はこのサイト内で今年最も読まれたスポーツビジネス関連記事トップ5をご紹介します。

 

1. 『今こそブンデスリーガの制度を見直すべきなのか』

こちらの記事はドイツ特有の50+1ルールについて解説したシリーズの第二弾です。
50+1ルールとは、ざっくり説明すると外部企業や投資家によるブンデスリーガクラブへの影響力を限定し、母体組織が運営していくためのルールです。
ドイツでは90年代にサッカークラブのプロフェッショナル化が進み、元々の非営利団体組織と切り離して運営会社が設立されました。
この運営会社の議決権の過半数、つまり50+1%以上を母体組織が保持しなければならないと規定されています。
後述しますが、第一弾では国際的に有名な企業であるバイエル社とレバークーゼンの関係性を例に挙げ、基本的な説明をしました。
そして、この第二弾では50+1ルール廃止を主張するハノーファー会長について取り上げています。
このルールに対する考え方、論点など興味のある方は是非ご覧ください。

2. 『2020最新ブンデスリーガ決算報告書からわかる4つのこと』

この記事では、2020年にDFL(ドイツサッカーリーグ機構)が発表した『2018/19シーズン決算報告書』について取り上げています。ここでは大きくリーグの収入源と自己資本率にフォーカスして、どのくらいの構成比率なのか、また前年から何%変化があったのか、そして最後にそれらデータから読み取れることを簡単にまとめました。ざっくりとしたブンデリーガの財務状況が知りたい方におすすめです。
 

3. 『なぜバイエル社がレバークーゼンの株式を100%保持できるのか』

こちらは先ほど紹介した50+1ルールをわかりやすく説明した記事です。ドイツサッカーに少し詳しい人なら、なんとなくブンデスリーガではワンマンオーナーの資金力による大胆なクラブ運営が難しいという印象を持っているかもしれません。しかし、いわゆる''Lex Leverkusen''(レバークーゼン法)と呼ばれる例外も存在します。
「なぜこのような例外が認められているのだろう」という疑問から執筆はスタートしました。
どういう背景で成立し、どんな条件が適応されているのか。複雑になりがちな法や規約に関して極力わかりやすく説明した記事です。

4. 『ドイツの大学でスポーツマネジメントを専攻するメリットとは』

この記事は僕が「ドイツに来る前に知りたかったこと」という観点で書きました。
なかなか情報が少ない中で、実際に体験したからわかることをメリット・デメリットという枠組みで簡潔にまとめています。
あくまでも主観であり、広く一般的ではないと思いますが、1つの参考として留学を検討している方のお役に立てれば幸いです。

5. 『アディダスの国際化とグローバル戦略①』

ここではドイツのスポーツメーカーアディダスのグローバル戦略について書いています。
ちょうどこれを書いた頃、大学の授業で扱った内容だったので、公になっているソースをかき集めたものです。
ドイツ語でまとめたものを後から日本語に訳したため、若干不自然な日本語名称などあるかもしれませんのでご了承ください。
 

まとめ

コロナはスポーツ界に大きな打撃を与えました。それは健全経営で有名なドイツ・ブンデスリーガにおいても例外ではありません。そんな中、再び50+1ルールをめぐる議論が活発になりました。
この議論は今年注目してきたトピックの1つです。結果的にこのルールに関して3つの記事を書くに至り、アナリティクスによるとこれらは比較的読まれていることがわかりました。
 
個人的な話をすると、今年は前年と比べて文章と向き合えた実感があります。それでも、ひと記事書くのに多くの時間を費やしてしまうため、なかなか重い腰が上がらないという現状です。「なんとなく伝えたいことがあるのに」というもやもやした気持ちを残さないよう、来年も引き続き地道に積み重ねます。
読んでくれた方々どうもありがとうございました。
 
それでは、みなさん良いお年を〜

 

【フルHD】ブンデス史上最年少ゴール!ドルトムント神童ムココとは

 2020年12月18日ブンデスリーガの歴史が変わりました。

 

こんにちは、Shootです。

 

今回は選手の紹介を通してドイツサッカーを考えます。

焦点を当てるのは、ドイツ国内だけでなく世界中で話題沸騰中のユスファ・ムココ。

15歳でトップチームに昇格すると、11月21日のヘルタ・ベルリン戦にわずか16歳1日の若さで途中出場、ドルトムントOBヌリ・シャヒンが保持していたブンデスリーガ最年少出場記録を更新しました。

さらにその勢い止まらずCL第6節ゼニト戦でデビューを果たし、CLの歴史に名を刻んでいます。

www.bundesliga.com

そして、12月18日ブンデスリーガ史上最年少ゴールを更新しました。

 

基本情報

f:id:shootDE:20210127170647j:plain

https://twitter.com/BlackYellow/status/1301637841601077248

名前:ユスファ・ムココ (Youssoufa Moukoko)

出身:カメルーン首都ヤウンデ

生年月日:2004年11月20日

国籍:ドイツ/カメルーン

身長:179センチ

ポジション:CF

利き足:左

所属クラブ:ボルシア・ドルトムント

背番号:18

スポンサー:ナイキ

 

参照:Youssoufa Moukoko - Player profile 20/21 | Transfermarkt

 

経歴

ムココの最初のキャリアはドイツの北部で始まります。

港町ハンブルクに25年以上住んでいるという父の影響で、2014年10月ムココは生まれ育ったカメルーンを離れドイツへ移住。当時はまだ9歳でした。

2014年から16年にドルトムント下部組織へ移籍するまで彼はザンクトパウリU13でプレーします。

そのポテンシャルは当時から目を見張るものがあり、更なるトップクラブに引き抜かれるのは時間の問題だったと監督は振り返ります。また、入団トライアルの際にムココがスパイクではなく普通の運動靴でプレーしたという興味深いエピソードもあるのだとか。

Youssoufa Moukoko: Hamburg ist die Heimat des BVB-Wunderkinds | MOPO.de

BVB-Supertalent Youssoufa Moukoko: Beim FC St. Pauli wurde er fast weggeschickt | MOPO.de

 

ドルトムントへ移籍後はU17でプレーし、同カテゴリー通算56試合で90得点をマーク。

2019/20シーズンは15歳にしてU19を主戦場に20試合34得点と新記録を樹立します。

さらに同年、UEFA Youth Leagueでもデビューを果たし、大会最年少記録を更新。その約1ヶ月後には大会最年少ゴールなど常に飛び級で結果を残してきました。

そして、16歳を迎えた今季は念願のブンデスリーガ、CLデビューを飾り、新たなキャリアをスタートしました。

 

また、 2017年にドイツ代表U16に選出され、4試合3ゴール。現在はU20ドイツ代表に名を連ねます。

 

年齢制限問題

今回ムココを取り上げるきっかけとなったのが、ブンデスリーガで適応される年齢制限の変更です。

2020年春、DFL(ドイツサッカーリーグ機構)の総会でこの年齢制限の引き下げが正式に決定しました。

 

ドイツブンデスリーガにはLOS(Lizenzordnung Spieler)と呼ばれる規約が存在します。

簡単に説明すると、これは選手がブンデスリーガでプレーする条件を定めたもの。

この規約の第14章には育成年代選手のライセンスについて記されているのですが、従来は17歳になる年代の後半月生まれ、つまり最年少で16歳と6ヶ月以降の選手にプレー許可が下りることになっていました。

しかし、ドルトムントはこのルールの変更を申請。

バイエルンもそれを支援する形で、同様にDFLやLeistungszentren(育成機関)も賛同を示し、16歳を迎えた選手のプレー許可が総会でスムーズに採決されたという経緯です。

 

ちなみに、他のヨーロッパトップリーグでは16歳の選手がプレーすることが許可されており、「他国との競争力」は度々議論となるポイントでした。

 

プレー動画

以下はムココのプレー動画です。高画質で発信元が担保されているものをいくつかピックアップしました。

 

最初の動画はSport1から公開されているU17国内杯セミファイナル。13歳とは思えぬ堂々としたプレーをご覧下さい。


Wunderkind Moukoko: Seine große Show im U17-Halbfinale | SPORT1

 

続いて、U19ユースリーグでのスーパーゴール。


Moukoko & Reyna shoot BVB U19 into next round! | BVB U19 - Slavia U19 | Youth League | Highlights

 

以降はDFB公式チャンネルが公開しているU19の試合動画ですが、Youtube上でしか再生できない設定なのでリンクを貼ります。

1つ目は圧巻の1試合6ゴール。

6 Tore: Krasse Moukoko-Show | Alle Tore der A-Junioren-Bundesliga | 1. Spieltag - YouTube

 

2つ目はレヴィアダービーでのハットトリック。

Nächster Dreierpack! Moukoko versenkt Schalke | Alle Tore A-Junioren-Bundesliga | 3. Spieltag - YouTube

 

ちなみにドイツ版のDAZNではムココとレイナを特集したドキュメンタリーを配信しています。Youtubeでもショート版が見られるので貼っておきます。

Youssoufa Moukoko vor Debüt - "Kann mithalten!" | Bundesliga | Matchday Feature | DAZN 

 

年齢詐称疑惑

飛び級でプレーしていたにも関わらず凄まじい成績を残していたため、一時期年齢詐称疑惑が浮上しました。

しかし、これに関してクラブ側が公的な証明書があることを主張。加えて、役所がそれを証明したという報道があり、彼の生年月日は確かであるとされています。

 

まとめ

今回ドイツの若きタレントを紹介しました。

その情報を集め、まとめる過程で思ったことが3つあります。

 

1つ目はドイツサッカーへの期待です。

今回取り上げたムココのポテンシャルは疑いの余地がなく、将来非常に楽しな選手です。

また、彼の所属するドルトムントの例を挙げれば、彼以外にもレイナやべリングハム、ヘイニエルなど10代のタレントがコンスタントに出場機会を得ており、ハーランド、サンチョも驚くことに2000年生まれです。ドイツ代表選手ではないのが惜しいですが。

今後ますます若くポテンシャルのある選手がチャンスを得られる環境になれば面白いなと個人的には思っています。

 

そして欧州カップ戦に目を向ければ、昨シーズンCL王者にバイエルンが輝き、ベスト4にRBライプツィヒが残りました。

今季はなんと全4チームがCLグループステージを突破し、EL出場の2チームも順調に駒を進めています。決勝ラウンドもドイツ勢の活躍に要注目です。

 

2つ目はルール変更への姿勢について。

今回扱った年齢制限はドイツブンデスリーガ独自のルールでした。前述したように他のヨーロッパリーグではこの制限がなく、これまでに17歳に満たない原石のデビューが散見されてきました。

この変更のきっかけとなったムココの実力は再度強調するまでもありません。

ここで注目したいのは、ドイツサッカーが必要に駆られ、ルールの改訂に動いたという事実です。これはあくまでも推測ですが、ドイツ独自の50+1ルール改訂、廃止という可能性も今後ブンデスクラブの状況変化やその際の主張次第ではあり得ると思いました。

 

3つ目はこのルール変更には不安要素もあるということ。

以下の動画でも取り上げられていますが、若く才能のある選手があまりにも早くから世間に注目されることはリスクが伴い、これまでも常に懸念されてきた問題です。これは世界中どこの国でも同じでしょう。

今回の件も例外ではなく、この変更を巡って確かに疑問の声があったことは忘れてはいけません。

 

2017年わずか12歳でU16ドイツ代表に選出されたムココですが、実際はそのメディアの注目度の高さからクラブとDFBで話し合い、彼の成長のためしばらく代表戦を見送るという決断をしていました。(U17 - BVB Nachwuchs

 

選手は資産という考え方ですから経済合理性を追求すれば企業、クラブ、エージェントは才能ある選手に早い段階で接触するべきなのです。メディアが大々的に取り上げ、関心を集めるのもごく自然なことです。

このような流れは昨今のプロフェッショナル化、すなわちビジネス化したサッカーでますます顕著になるでしょう。

しかし、選手はいわゆる一般的な投資対象物とは性質が異なること、それ故常に合理的にマネジメントできるわけではありません。

高い報酬や大舞台での経験が、タイミング次第ではストレスやプレッシャー、時には慢心に繋がりパフォーマンスを落とすこともあり得るのです。

ここ数十年で世界のスポーツビジネスは大きく発展してきました。欧州サッカーの歴史を見ても、営利から非営利へ、より高い収益性を目指すという一方通行の流れでした。

この範囲に従事していたこともあり、自分自身もいかに収益性を高められるかばかり考えていましたが、以上で述べたようなリスクはスポーツビジネスに関わる上で留意すべき観点だと再認識しました。

つまり、この文脈において一定の規制は重要な役割を担っており、それらの緩和は自分が考えていたより慎重に検討されるべきテーマであったというのが今回の気づきです。


Moukoko und Co: Der Jugend-Trend und seine Schattenseiten | Sportschau

 

それではまた!

 

3段階で増築可能!ドイツ4部の画期的なスタジアムとは

こんにちは、Shootです。

今日はドイツのユニークなサッカースタジアムを紹介します。

 

ドイツサッカーと言えば、圧倒的な観客数を誇ることで有名ですね。

ブンデスリーガ1部では毎試合スタジアムの90%以上が埋まり、平均しても4万人以上のファンが熱気に包まれたスタジアムで一喜一憂しているわけです。

 

多くの観客がスタジアムに訪れる理由は多岐に渡ります。

コンテンツ力はもちろんですが、リーズナブルなチケット価格、スタジアム設備、それに加えて歴史的・文化的な背景、行政との連携など様々な理由が重なり合っているのが現状でしょう。

 

ところで今日紹介するのは、ドルトムントやバイエルンのようなトップクラブではなく地域リーグに所属するクラブ。

ドイツ4部に相当するRegionalliga West(地域リーグ西)で2020年10月27日現在首位を走るRot-Weiß Essen(以下RWエッセン)のホームスタジアム''Stadion Essen''です。

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https://www.kicker.de/regionalliga-west/spieltag

 

Rot-Weiß Essenとは

少しだけクラブの説明をすると、本拠地はドイツの西側ノルトライン=ヴェストファーレン州の都市エッセン。歴史的には工業地域として繁栄したルール地方に位置し、サッカーファンならお馴染みのゲルゼンキルヘン、ボーフム、ドルトムントが同じエリアに存在します。

実はRWエッセンはブンデスリーガ創設前の1955年にドイツ王者になったこともあり、ドイツ国内では比較的知名度が高いです。

直近でブンデスリーガ2部に所属していたのは06/07シーズンでそれ以降は主に4部を主戦場としています。

https://rot-weiss-essen.de/

 

Stadion Essen

さて、本題へ移ります。2012年に''das Stadion Essen''と呼ばれる新たなスタジアムが誕生しました。

このスタジアムは前述のRWエッセン以外に女子サッカーのSGS Essenがホームスタジアムとして使用。また、コンサートなどのイベント会場としても使われています。

そして当然、DFL(ドイツサッカーリーグ機構)が定めるブンデスリーガ参加基準を満たしています。

しかしながら、地域リーグのモダンなスタジアムにただフォーカスしたいわけではありません。その特徴は3段階の増築プランにあります。

 

第1段階

いわゆる一階建スタジアムで、それぞれの観客席ブロックが分かれているタイプです。

席数は32列、合計約2万人収容可能。

この段階ではおおよそ9.000の立ち見席、11.300の座席、136のプレス席、1.061のビジネスシート、290のボックス席と38の車椅子席があります。

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https://www.stadion-essen.de/stadion/architektur/
第2段階

次の段階ではそれぞれのブロックを繋ぐカーブの部分を増築します。これにより、約5.500の新たな席を確保できるそう。

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https://www.stadion-essen.de/stadion/architektur/
第3段階

第3段階では二階席を増築予定。最終的には約35.000人収容のスタジアムへと姿を変えます。

 

つまり、クラブが昇格してカテゴリーが上がるごとに増築、その時に必要なキャパシティに応じて進化していくという画期的なスタジアムです。

 

まとめ

このスタジアム構想は非常に興味深いと思いました。

クラブの発展に伴い増築されるスタジアムは珍しくありませんが、最初からその想定で設計されたスタジアムはなかなかない気がします。それもこのカテゴリーで。

とは言え、地域リーグクラブだからこそこのスキームの恩恵を最大限に享受できるとも思います。

参考にすべきは長期的ビジョンを掲げた新興クラブでしょうか。

今回は莫大なコストのかかるスタジアム建設における1つのアイデアを紹介しましたが、Jリーグクラブにとってもヒントになるかもしれませんね。

 

現在、ヨーロッパはコロナの再拡大で再びイベントの規制へと向かっています。この厳しい状況を乗り越え、スタジアムに満員の観客が戻ってくることを祈ります。

それではまた!